明けましておめでとうございます。2013年も、シンセヒーローへの道をよろしくお願いします。
僕は2013年が始まって間もないというのに、ショックなことがありました。人生は上向きだったり、下向きだったり、何も変わらず平坦だったりしますよね。人生をシンセサイザーに例えるなら、まさにエンベロープのよう。
前振りがうまく決まったところで、さっそく本編に突入です(笑)。
今回はエンベロープをご紹介します!
- 前回記事:シンセヒーローへの道 Vol.2
今回使用するソフトウェア「SubBoomBass」
これから、エンベロープについてご紹介するにあたり、Rob Papen(ロブパペン)社「SubBoomBass」を使います。SubBoomBassもPREDATORと同じく、減算合成方式を採用しています。
この連載を読んでいただいている方なら、SubBoomBassのパネルを見ただけで、大まかな機能が把握できるくらい、分かりやすい構造です。
– キックのみ
– ベースのみ
– キック + ベース
しかし、オシレータに準備されている波形は、ベース音源に特化した特殊なものが多数用意されています。近年のダンスミュージックなどは、低音が重視されていますね。ベース音源はもちろんのこと、キックの質感を重くするために、キックと同じタイミングで、超低音のベースを鳴らしたりしますが、SubBoomBassはこのような低音部分の様々なシチュエーションに対応できます。
豆知識として、キックと同時に超低音のベースを鳴らすとどのように変化するか、体感してもらいます。かなり重要なテクニックですので、ぜひご自身の楽曲制作に役立ててください。 【参考音源】>>>>
エンベロープはLFOの仲間
これまでご紹介したシンセサイザーの音作りとして、オシレータで波形を生成し、フィルタで削る。その後、時間的変化を加えるため、LFOを各機能に入力するといったことをご紹介しました。
ちなみに、LFOなどで音に変化を与えることを、モジュレーション(変調)といいます。そして、LFOなどの時間的変化を与える機能を総称して、モジュレーション・ソースといいます。シンセサイザーの専門書などでは、頻繁に使われる用語ですので、ぜひ覚えてください。
– 元音源
– 音源にLFOを入力
– 音源にエンベロープを入力
今回ご紹介するエンベロープは、LFOなどと同じくシンセサイザーの機能にモジュレーションを加えます。音量を大きくしたり、小さくしたり、フィルタを開いたり、閉じたりと、時間的変化を与えます。
しかし、LFOとは決定的に異なる点があります。
それは、LFOは一定周期の信号を発生し続けているのに対して、エンベロープは、鍵盤のON/OFFに対して信号を発生します。まずは耳で体感してもらうことが一番ですので、Volumeに対して、LFOとエンベロープをそれぞれ入力しました。効果がはっきりと区別できるよう、元音源はノコギリ波の単音を鳴らしただけのものです。 【参考音源】>>>>
LFOは常にウネウネしているのに対して、エンベロープは音が大きくなり、急激に小さくなり、ゆっくりと音が減衰しました。同じ時間的変化を加えるモジュレーション・ソースでも、このように両者には決定的な違いがあります。
エンベロープを使ってみよう
エンベロープを入力することにより、シンセサイザーの内部ではどのような動きをしているのでしょうか。まずは、SubBoomBassのエンベロープのコントロール部分を見てみましょう。
▶ SubBoomBass エンベロープ
Filter、AMP(音量をコントロールするパネル)パネル部分に、
ATTACK、DECAY、SUSTAIN、RELEASE
とツマミがありますね。
(ここでは、一般的なエンベロープについて解説するため、FADEのツマミ部分の解説は後ほど行います)
これは、エンベロープの
ATTACK TIME、 DECAY TIME、
SUSTAIN LEVEL、 RELEASE TIME
を設定するもので、シンセサイザーによっては、
A、 D、 S、 R と省略されています。
このADSRのツマミがあるエンベロープを、ADSRエンベロープといいます。このADSRというツマミは、見たことがある方も多いかと思います。各ツマミの効果について、以下にまとめました。
A | アタック・タイム(ATTACK TIME) | 鍵盤を押してから、最大値まで達する時間 |
---|---|---|
D | ディケイ・タイム(DECAY TIME) | 最大値からサスティン・レベルに達する時間 |
S | サスティン・レベル(SUSTAIN LEVEL) | 鍵盤を押している間、持続するレベル。 |
R | リリース・タイム(RELEASE TIME) | 鍵盤から手を離してから、サスティン・レベルから0%に減衰する時間 |
– ADSR方式の図
左記の図は、シンセサイザー専門書には必ずといっていいほど書かれています。上昇、下降、持続といった、LFOとはまた違った変化の設定が行えます。
それでは各ツマミを理解していただくために、いくつか音源を用意しました。エンベロープの効果を際立たせるために、シンプルにコードを鳴らしたものです。また、ADSRの設定値、ADSRのおおまかなイメージ画もそれぞれ記載します。ADSRの値により、音にどのような変化をもたらすかを注意して聴いてください。
ADSRの単位として、ms、sが使われる場合があります。
1s = 1秒、1ms = 1ミリ秒 = 1/1000秒のことです。
A:1ms、 D:1ms、 S:100%、 R:1ms
A:3,8s、 D:1ms、 S:100%、 R:1ms
A:1ms、 D:2.5s、 S:30%、 R:1ms
A:200ms、 D:1ms、 S:100%、 R:3.0s
A:1.5s、 D:1.0s、 S:30%、 R:3.0s
いかがでしょう? エンベロープの各ツマミの働きがつかめたでしょうか?
上記の音源の中で、最後の音源に注目してください。元は単調なコードを鳴らしただけのはずが、エンベロープの設定を追い込むことにより、コードが持っている悲しさという感情をより表現できていると思います。シンセサイザーというと、どうしてもテクニカルな部分だけを注目しがちですが、生楽器のように感情を表現できるということを忘れないでください。
また、時間的変化を加えることにより、音楽的な観点から様々な効果をもたらすことができますが、今回はSubBoomBassを使っていますので、グルーヴの部分に注目します。グルーヴという定義は具体的には決まっていませんが、リズム部分を対象として、楽曲を聴いていて気持ちいいかどうかを表現する際に使われる場合が多いです。
– エンベロープ調整前
– エンベロープ調整後
エンベロープのアタック・タイムで音の立ち上がりスピード、ディケイ・タイムでアタック部分の抑揚を調整することにより、グルーヴを生み出すこともできます。
そこで、SubBoomBassを使ってベースフレーズを作成しました。エンベロープ調整前と調整後を聴き比べてください。【参考音源】>>>>
ウネリ具合が全く違いますよね! このように、シンセサイザーのパラメータの追い込みでもグルーヴは生み出せます!
と、ここまでADSRエンベロープについてご紹介しました。考え方はシンプルですが、様々な音が作成できるエンベロープ! しっかり使い倒して、自分の武器にしてください。
▶ SubBoomBass 「Fade(フェード)」
そして、冒頭でお伝えしましたが、SubBoomBassのエンベロープにはFのツマミがありましたね。
これは、フェード(Fade)といって、サスティンを通過したあと、第二のアタックのように動作する機能です。Rob Papenソフトウェア・シンセサイザーではおなじみの機能です。
Fadeの詳細は、以下の記事もご参照ください。
このように、ADSR方式以外のエンベロープも存在します。ディケイしかついていなかったり、ホールド機能がついていたり、Rob Papen社 BLUEのように、複雑なカーブをもったエンベロープもあります。
しかし、どれも考え方はADSR方式の応用なので、まずはADSR方式をしっかりと押さえておきましょう。
今回は、ここまでです。
これまで、オシレータ、フィルタ、LFO、エンベロープとご紹介してきましたが、かなり大雑把に言い切ってしまいえば、メインとなるシンセサイザーの機能はこれだけなんです。これらの機能を組み合わせることが、シンセサイザーの音作りにおいて重要になってきます。
次回からのシンセヒーローへの道は、応用編に突入します!
機能の組み合わせといった点での代表格、フィルタ&LFO、フィルタ&エンベロープについてご紹介します!