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プロが選ぶ FabFilter Pro-Q:prime sound studio form

福地です。
FabFilterユーザーのエンジニアやアーティストを訪問するコーナーの第2回目。

今回はレコーディング、ミックスの現場で使われている模様を伺いにprime sound studio formの森元さん、熊本さんにお話を伺いました。

ちょっと脱線した話があったり、プラグインに関する話からは離れたりするものの、より良いサウンドを作り上げていく上で参考にレコーディングやミックスを行う上でためになる話をたくさん伺うことができてあっという間のお時間でした。リラックスした雰囲気の中で単なるプラグインのレビュー的なインタビューにとどまらず、たくさんのティップスを伺うことができました。

prime sound studio form
森元 浩二. / 熊本 義典:レコーディングエンジニア

このスタジオではFabFilter製品は何を所有されていますか?また、スタジオで使用する(揃えておこうと思う)プラグインの選択はどのような視点で選択されますか?

森元:formではFabFilterのTotal Bundleを導入しているので、すべてのプラグインを所有しています。スタジオにどんなプラグインを導入するかはエンジニアが集まって会議で決めます。外部のエンジニアさんがどんなものを使っているかなど、アシスタントの情報も重要ですね。form全体で11のスタジオがあり、どのスタジオでも同じ作業が出来るようにプラグインはほぼ統一していて、全部屋分となるとかなりの金額になるので、その分厳選したものを入れています。しかしPro Toolsを導入して25年ぐらい経つので、レンタルスタジオとしてはかなり多くのプラグインが入っていると思います。私がFabFilter製品を知ったのはTony Maseratiのインタビューを読んだことがきっかけで興味を持ちました。

FabFilter製品の中で一番使用頻度の高いプラグインは何でしょう?

森元:圧倒的にPro-Q 3ですね。あとPro-L 2もよく使います。頻度としてはほぼ100%に近いです。

熊本:あとはマルチバンドコンプのPro-MBもよく使いますね。

数あるEQの中でPro-Q 3を気に入っている点はどんな点ですか?

熊本:バージョン的にはQ 2から使っていたのですが、一番の良さは使いやすさですね。そして動作が軽く、細かくバンドを作成できるのがいいですね。

あと波形も表示される点もいいですね。Q 3になってもっと好きになったのは、ダイナミックEQの存在ですね。ダイナミックEQを使用できるようになったことでかゆいところに手が届くようになりました。ただ単にある一定の帯域を下げる(カットする)ともったいない部分も下がってしまうところをピンポイントで処理できる点が気に入っています。

森元:他にも似たようなユーザーインターフェースを持つプラグインはありますが、Pro-Q 3が一番使いやすいですし、音色も良いので使っています。また、位相変化の無いリニアフェイズが少ない遅延で使えるのがいいですね。

Pro-Q 3を選択するシチュエーションはどんなときですか?

熊本:個性的な音色を持つEQを使いたい場合を除き、ほぼ100%Pro-Q 3を使用しています。

森元:ミックスではすべてのチャンネルにSSLのChannel Stripを使用してアナログコンソールでミックスしている様な感じにしています。それで事足りないときに使うEQの第一候補がPro-Q 3ですね。

具体的にどんな使い方をされていますか?

森元:ほぼダイナミックEQで使っていますね。ダイナミックEQってコンプとEQがくっついたようなものという考え方で、帯域の出っ張る、引っ込む部分をスレッシュホールドレベルを決めて上げる下げる事ができます。「この音程の強い時だけ切りたい」とか「この音程の弱いときだけ持ち上げたい」っていう使い方をします。Pro-Q 3は良くできていて思った通りの動作をしてくれます。レベルに達しない時はフラットなので他の音に影響を与えることはないですから本当に便利です。

熊本:マルチバンドコンプでも同じようなことができるんですけど、マルチバンドコンプでかけた場合、たとえピンポイントでかけたとしても音質が変わっちゃうなと感じることが多いのですが、その点Q 3を使った場合は自然だなと感じますね。

森元:他のメーカーからもダイナミックEQは発売されていて、持ってもいるのですが、そんなに細かい設定ができないので、選択肢としてPro-Q 3を選択することになりますね。

プロセッシングモードはどれをお使いになられることが多いですか?

森元:僕はナチュラルフェイズを一番よく使います。

熊本:そうですね、録りが続くときのモニターEQはゼロレイテンシーを使って、ミックスの時に音色を聴いて決める感じですね。フェイズの変化もEQの特色だと思っているので、変化のないリニアフェイズを使うのは、ローを急峻に切るときに位相が回ってしまうのが嫌なので、その様なフィルターを入れる時に使うことが多いです。

1つのインスタンスで最大24個バンドを作成することができますが、仕事で使われるときはどれくらいのバンドを使われますか?

森元:5個か6個くらいだと思います。私の場合それ以上使ってこねくり回した場合は、やっている時はいいと思っても、あとで聞くとひどいことになっている事が多いんです。なので、あまりポイントを増やさずに処理するようにしています。

熊本:僕の場合は、4、5バンド作って、さらにダイナミックEQを2か3くらいで限界だと思います。

Pro-Q 3は、1つのインスタンスでステレオ、L、R、M、Sを混在させて使うことができますが、この機能は使いますか?

熊本:やっている作業がわかりにくくなるので使わないですね。ただ、L、Rは使いますね。ライブ録音をエディットする時に被りが多いトラックだとAuto-Tuneが引っかからないことがあるのでその時にLチャンネルで読ませてRチャンネルでかけるようなことをしています。

森元:EQは左右別やM/Sでは滅多に使いません。

使い分けるときの判断基準っていうのはありますか?

森元:切り替えてみて違いが判らない場合はデフォルトのゼロレイテンシーで良いと思います。同じような音色をレイヤーしたときに片方だけ切った時に音色が大きく変化した場合は、位相が干渉している場合があるので、リアフェイズを試してみますね。

FabFilterプラグインの操作性に関してはいかがですか?

熊本:慣れてしまったというのもありますけど、めちゃくちゃ使いやすいです。

森元:同じく。

ミックスをする際にどの時点でEQを使いますか?

熊本:それって人によって違ったりもするので私の場合で言うと、使う順番的なものは普通に聴ける状態のもの(帯域バランスのよいもの)の場合は、先にコンプをかけてからその後にEQをかけています。逆に帯域バランスの悪いもの(例:低域が過剰にもこもこしている音など)に関しては、先にコンプをかけてもその過剰な部分に反応してしまって、正しい効果が得られません。そういう場合は先にEQをかけて帯域を整えてからコンプをかけるようにしています。

森元:僕もだいたいは同じでコンプが先ですね。まずコンプの後にEQして、足りなければさらにコンプを入れたりします。一つのプラグインで大きく音色を変化させるより、複数のプラグインを使って少しずつ目的に近づけるようにしています。

ケースバイケースっていうことでしょうか?

森元:それ言っちゃうと話が終わっちゃうんですけどね。

一同:笑。

宅録できちんとした環境で録音できる人は少ないと思うので、それをうまくまとめる方法があれば教えて頂け無いでしょうか?

森元:目標をしっかりと持って処理をするのが重要ですね。トラック単体で聞いて決めるのではなくて、全体を聴きながらオケ中での聞こえを調整します。まず普通のEQ、コンプを使って調整して、それで足りなければマルチバンドコンプ(Pro-MB)やダイナミックEQを使うようにします。ちゃんと目標に向かっているかをバイパスにしたりしながら進めるのがいいと思います。

判断基準は基礎的なことを勉強した方がいいのか、経験からくるものなのかどちらなんでしょう?

森元:その辺の判断はセンスですかね。基礎的な理論は知っておきつつ…経験とセンスだと思います。あとはやり過ぎないことが良いと思いますよ。だいたいやり過ぎて失敗するパターンが多いですから。ただ音楽に正しい答えはないので、自分がいいと思うものを作るのがいいですね。好きにやって、それがカッコよければセンスあるということなので。

宅録されているときにやり過ぎてしまったと感じた場合、どの辺まで戻ったらいいと思いますか?

森元:全部じゃないですかね(笑)。一回、全部バイパスしてレベル合わせて聴いてみるといいと思いますよ。結局レベルしか変わってなかったってこととかありますよ。

熊本:意外とバイパスした方がいいっていうこともありますよ。

今後のPro-Q 3に求める性能はありますか?

森元:そうですね…今で充分だから難しいなぁ…アナログシミュレートがあれば…いや、このままでいい気がします。

熊本:これが良いから使っているので充分な気がします。

森元:しいて言えば、ダイナミックEQがアタック/リリースなどが付いてもう少し融通が利くようになるといい気がしますね。

熊本:でも、あんまり細かく設定をできるようにすると逆に使いづらくなってしまうんですよね。

森元:その通りですね、あんまり色々考えたくないんですよ。

熊本:これで満足しているんだったら、これでいいんじゃないかなって思いますよ。スレッショルドは調整が効くので僕はそれを使っています。今のアタック/リリース感が意外とハマるのでよくできていると思います。

森元:アタック/リリースって、見えないけどどうなっているんでしょうね?まぁ困ってはいないですけど…しいて言えば、アタックがもう少し遅くてもいいのかもしれませんね。

Pro-Q 3を使ってみて、どのような印象を持たれていますか?

森元:プラグインってユーザーインターフェースが重要だと思うんですよ。その点、FabFilter製品は良いと思います。中にはこれはどうやって使うんだろうって思わせる高度なものもありますけど。(笑)

熊本:わかりにくいけど、良いからこれ使おう的な時もありますね。Saturnとかそうですよね。

森元:ウチのエンジニアの大西義明氏は、Saturnをよく使っていますね。

Saturnはどんなシチュエーションで使われるんでしょうか。

熊本:帯域ごとに歪ませられるのが良いんだと思います。例えば、ギターとかベースで歪みを加える場合、下の帯域は歪ませたくないことがあるんですが、そういう時は帯域別に歪ませられるのは良いんだと思います。

話は戻りますが、音色問わずPro-Q 3を使われますか?

熊本:何にでも使いますね。何だったらlinearにしてトータルにも使います。

森元:僕はボーカルにダイナミックEQでよく使いますね。プリセットのVocal 1、2、3が良くできているので、そこから派生したプリセットを自分でも作っています。ダイナミックEQで使う場合、何もないところから作っていくのは大変なのでプリセットが良くできているのでそれを基に自分の音を作っています。

熊本:僕もPro-L 2のプリセットをよく使いますね。

森元:そういう意味ではそのプラグインがどういうものかを知るためにもプリセットの質って重要ですね。

熊本:リバーブやディレイもプリセットを起点に音を作っていくことがありますね。

森元:プリセットが無いと、どの様な音になるか、どんな効果が有るか分からないので、そのプラグインを知るためにも重要です。

多良間:プリセットのいの一番ってプラグインの売りを表しますよね。

一同:そうですよね!

その他のFabFilter製品でよく使用されるものはありますか?

森元:Pro-MBは良くできていると思いますよ。好きです。あれってアタック/リリースってありましたっけ?そんなこと気にせずスレッショルドしか触ってない気がします。

熊本:ありますね。でも僕もいじってないですね。設定が良い感じのところにあるのでそのままにしています。

森元:ゲート(Pro-G)は細かく波形も見ることができるので使いやすいですよね。

FabFilterのプラグインってほとんどすべてのものが波形を表示するよう統一されているので使いやすいですよね。

森元:そうですね、イメージがつかみやすいですね。ゲートは、ドラムの鳴り物を録ったときに被りを切るのに波形で確認しながら作業ができるのが便利なので使っていますね。

ドラムを録音する場合、どうしても被ってしまいますよね。その場合は必ず処理はされますか?

熊本:したりしなかったり…ケースバイケースですかね。

森元:切るのもゲートで切ることもあれば、プラグインを使うのではなく手動で波形を直接切っていくこともありますね。

熊本:タイトに仕上げたいときは、ゲートを使うことが多いですね。アコースティックな雰囲気の場合はあんまり使わない方がいい結果が出るような気がします。

そもそも、音質の調整という意味では、マイクを使用した録音の場合、マイク、プリアンプの選択、マイキングで音色が変わると思いますが、そこでのEQの役割とはどんなことでしょうか?

熊本:僕の場合ですけど、楽曲に合うようにドラムの場合はがっつりEQしますね。他の楽器では時と場合により。歌にはローカットしかかけないですね。

森元:EQの役割は楽器の特徴を強調するですかね。僕は「こういう音作りをしたい」っていうのがわかるように積極的にコンプEQはして録音をしています。録音されたデータを頂いたときに「これはどうしたかったのかな?」と思うことがたまにあるんですけど、自分がこうしたいという意思がわかるようにしています。やりすぎは良くないですけど。(笑)

熊本:後々、どちらにしても少しは処理をするんですけどね。

森元:必要なことを必要なだけするようにしています。後で調整できるからって何もしないもは気持ちが乗ってないなって思います。

マイクの種類や立て方によって音が変わりますよね、その場合はあるていど「こういう音で録りたい」という意図をもって録音をされるのですか?

森元:そうですね。マイクをたくさん立てて「なんとでもなります」的な録り方はどういう音にしたいのかわかりにくいので好きじゃないんですよね。気合が足りない!(笑)

熊本:僕の立場から言ったら録ったデータを森元さんに渡すってなったら安全策を取りますよ。(笑)

DTMerが録音にこだわるとき、マイク > オーディオインターフェース > DAWという接続経路になります。この場合、マイクの選択肢を増やすかマイキングを工夫することになりますが、さらに音質を向上させたい場合はどうしたらよいでしょうか?

熊本:その環境にHA(ヘッドアンプ ≒ マイクプリアンプ)を加えるといいような気がします。

森元:先日、知り合いのミュージシャンがマイク、インターフェース、HAを買い替えるというので一緒に行ったんですけど、予算の割り振りはマイク > HA > インターフェースの順番ですね。

マイクは一番重要で、その次はHAだと思いました。マイクの質はできるだけ良いものを使った方が良いと思います。 ちゃんと録れていれば後で調整することはできますけど、無いものは無いので…。太い音を細くしたり、近い音を遠くすることはできますが、その逆は非常に難しいのでちゃんと録音することが大切だと思います。

宅録でより良い音で録音をするために何かアドバイスはありますか?

森元:まずは、直接音に少し遅れた反射音混じることよって起こる現象、コムフィルターがかからないようにすることですね。コムフィルターがかかると二度と外せなくなっちゃうので、とにかく反射の対策をしっかりすることでしょうか。外に音が漏れないための防音も大事ですけど、反射を防ぐ吸音の方が重要ですね。

熊本:リフレクションフィルターでマイクの後ろの吸音もすごく効きますけど、録音することを仕事にしている立場から言えばそれだけじゃ不十分で背後の吸音にも気を配った方がいいですね。

おすすめ、または気に入っている機能はありますか?

森元:ローカットフィルターのカーブがブリックウォールまで選べるのが良いですね。

熊本:僕は特別な機能は使わないので、さっきも話したようにダイナミックEQですかね。

森元:アナライザーを見ながら操作できるのは便利ですよね。目で判断するのは違いますけど、確認できるのはうれしいです。

熊本:昔、マイク違いの音を同じ音色にしたくてEQ Matchを使ったことがありますが、あれは良くできていますね。


今回、いろんなお話を伺えましたが、FabFilterに関するお話だけではなく、宅録のクオリティを上げるためのヒントもうかがえたと思います。

FabFilter製品に関しては基本的な機能を精度高く、使いやすく、わかりやすいということがポイントだったのではないかなと感じています。まさにその点がFabFilterの強みだと思うのでプロのエンジニアさんにも評価されていることを改めて知ることができ嬉しく思いました。

プロフィール

森元 浩二.

エンジニア、ミキサー。1985年〜リットーミュジック Avic Studio。1987年〜サンセット・ミュージック。

1991年〜Studio Sound DALI。1999年〜I to I Communications。2002年にavex entertainmentのスタジオ、prime sound studio formを設立。

チーフエンジニアとして、浜崎あゆみ,EXILE,三代目 J Soul Brothersなどの作品に携わる。

現在、特定非営利活動法人日本レコーディングエンジニア協会の副理事を務める。

熊本 義典

SONATA CLUB、STUDIO Columbiaを経て、現在prime sound studio formに所属。

演歌、劇伴、クラシック、J-pop、バンド…様々なセッションを経験し、最近では、和楽器バンド、ハラミちゃん、BIGMAMAなどの作品に参加。

福地 智也

Jimmy Nolen、Nile Rodgers等に影響を受け、 Blues, Soul, Funkをこよなく愛す。ギタープレーヤーとして杏里、倖田來未、片瀬那奈、さんみゅ~、楠田亜衣奈等のレコーディング、佐藤康恵のライブに参加、同サポートバンドでは、バンドマスターを務める。ギター 演奏、音楽制作のみならず、楽器、DAWのセミナー、デモンストレーションでは、難しい用語を使わずに、誰にでもわかりやすい内容が評価を受けてい る。 https://www.dopewire.net/