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Inside Newfangled Audio vol.5

「Articulate」ADSRエンベロープ・シェイパーの開発秘話〜これはコンプレッサーじゃない。音の形を操る新しい方法だ。

今回の記事では、コンプレッサーによる音作りと、音の立ち上がりから余韻までの変化を表す「エンベロープ」について紹介していきます。音をより大きく聴かせる「Elevate」や、音に力強さとまとまりを加える「Invigorate」にも触れながら、エンベロープを直接調整する「Articulate」の開発背景や仕組みを解説。さらに、ミックス全体の音の立ち上がりを整える「Punctuate」との違いや使い分けも紹介します。

1. コンプレッサーとは?〜音の直接的なコントロール


私は昔からコンプレッサーというものに魅了されてきましたが、とくに面白いのは、コンプレッサーについて語るときの説明と、実際の使い方との違いです。

コンプレッサーについて最初に教わるのは、「ダイナミックレンジ(音量の大きい部分と小さい部分の幅)をコントロールするためのもの」だということ。

信号のレベルがスレッショルド(音量を抑え始める基準値)を超えると、コンプレッサーが働きます。そして、レシオ(圧縮比)に応じてゲインを下げて音量を抑え、暴れるダイナミックレンジを手なずけてくれるわけです。

いやはや、ダイナミックレンジの暴走というのは、よほど深刻な問題なんでしょうね。だって、ミックスエンジニアたちは、ありとあらゆるトラックにコンプレッサーを挿しているんですから。

でも実際のところ、ダイナミックレンジに問題があるのなら、レベル・オートメーション(時間に沿って音量を自動調整する機能)や、クリップゲイン(録音した音声素材ごとの音量調整)で解決していることが多いはずです。では、私たちは何のためにコンプレッサーを使っているのでしょう?

もともとコンプレッサーは、アナログ環境でダイナミックレンジをコントロールするために発明されました。ただ、その処理に伴って、音の質感にも変化が加わってきました。そして、その変化の中に、音楽制作で重宝される魅力があったのです。

私はずっと考えていました。その魅力的な変化を、もっと直接的に得る方法はないのだろうか、と。

2. コンプレッサーが生み出す、魅力的な効果


では、コンプレッサーは音にどんな魅力を加えてくれるのでしょうか?

① ラウドネスを高める

コンプレッサーを使うと、録音した音のラウドネス(聴感上の音の大きさ)を高められる。これは皆さんもご存じのとおりです。

「いい音で、できるだけ大きく」。その課題に私たちなりに取り組んだのが、Elevate Mastering Limiter(音のピークを制限し、ラウドネスを高めるリミッター・プラグイン)です。

Elevate

② エネルギーと一体感を加える

コンプレッション(コンプレッサーによる処理)の効果は、ラウドネスだけではありません。音にエネルギー感を与え、さらには「グルー」と呼ばれる、音同士がなじんでひとつにまとまるような一体感も生み出します。

私たちは、その仕組みを深く掘り下げ、Invigorate Buss Compressor(複数のトラックをまとめた音などに、力強さや一体感を加えるプラグイン)を開発しました。コンプレッション、リミッティング(音のピークを制限する処理)、ディストーション(歪み)をそれぞれちょうどよい量にすばやく調整し、狙ったエネルギー感や一体感を引き出せるようにしたのです。

Invigorate

③ エンベロープを変化させる

コンプレッサーには、エキスパンダーやゲート(音量差を広げたり、小さな音を抑えたりするエフェクト)と同じように、音の「エンベロープ」を作り変える働きもあります。エンベロープとは、音の大きさが時間とともにどう変化するかを表したものです。

このエンベロープを、もっと直接的に調整できるようにする。それが、Articulate(音の立ち上がりから余韻までを個別に調整するエンベロープ・シェイパー)の開発目標でした。Articulate

3. 音の「形」を整えよう


そもそもエンベロープとは何でしょう? それを変化させることには、どんな意味があるのでしょうか?

エンベロープは、時間に沿った音の変化の形です。そしてこの形は、私たちの脳が音をどう捉えるかに大きく関わっています。たとえば、ギターの弦をはじいた音と、バイオリンの弦を弓で弾いた音。その違いを生む要素のひとつが、音の立ち上がりの速さです。

音には始まりがあり、途中の変化があり、終わりがあります。その形はさまざまですが、シンセサイザーの設計者たちは、アタック・タイム(立ち上がりの時間)、ディケイ・タイム(立ち上がり後に減衰する時間)、サステイン・レベル(持続部分の音量)、リリース・タイム(音が消えていくまでの時間)を設定することで、多くの典型的なエンベロープを表現できると気づきました。

この4つを組み合わせたものが、多くのシンセサイザーでおなじみの「ADSRエンベロープ」です。ADSRは、それぞれの英語名であるAttack、Decay、Sustain、Releaseの頭文字を取っています。

  • Attack(アタック): 音が立ち上がるまでの時間
  • Decay(ディケイ): 立ち上がった音が一定のレベルまで減衰する時間
  • Sustain(サステイン): 音が持続している間のレベル
  • Release(リリース): 音が消えていくまでの時間

Articulateでは、このADSRの考え方を応用し、音を4つの部分に分けて捉えることにしました。

まず、音が鳴り始めた瞬間の「Attack」。ここは、音のごく最初の立ち上がり。鋭い打撃感(Smack)を生み出す部分です。

次に、より厚みのある「Decay」。アタックに続く、厚みのある減衰部分。音のパンチ感(Punch)を生み出します。

そして、楽器本来の音の胴体ともいえる「Sustain」。音が持続する部分で、楽器の音の厚みや芯(Body)を担います。

最後が「Release」。音が消えていく余韻の部分で、多くの録音では、部屋の響きや空気感(Air)が含まれます。

もちろんこうした調整は、コンプレッサーでも可能です。コンプレッサーのアタックやリリースの時間(圧縮のかかり方や戻り方の速さ)を適切に設定し、スレッショルド、レシオ、そのほかのパラメーターを組み合わせれば、音の立ち上がりを整えたり、空気感を引き出したりできます。しかし、これらはあくまで、コンプレッサー本来の目的であるゲインリダクションによって生じる副次的な効果でした。

また、トランジェント・モジュレーター(音の立ち上がりなどに現れる瞬間的な変化を強調・抑制するエフェクト)も以前からありますが、音のエンベロープ全体をコントロールできるわけではありません。

さらに、コンプレッサーにもトランジェント・モジュレーターにも、共通する問題があります。反応の速さと、エンベロープ検出に伴って生じる歪みの量との間に、トレードオフがあります。素早く反応させようとすると、そのぶん歪みが増えやすいのです。

4. エンベロープを検出する


音のエンベロープを調整するには、まずそれを測定する必要があります。

「そんなの簡単。エンベロープ・ディテクターを使えばいい!」

そう思った方も多いでしょう。さすがです。そのとおり。

ただし、エンベロープ・ディテクター(音量の時間的な変化を検出する仕組み)には、根本的な問題があります。信号レベルを平均して捉えている、ということです。滑らかで安定した平均値を得るには、ある程度長い時間にわたって信号を捉えなければなりません。ところが、そうすると、信号レベルの素早い変化に反応しにくくなります。

反対に、レベルの変化に素早く反応させようとすると、今度は音の波形そのものの細かな上下まで追いかけてしまい、検出結果に細かな揺れが生じます。この揺れの多いエンベロープを使って音量を変化させると、音に大きな歪みが加わってしまうのです。

つまり、必要なのは、非常に素早く反応しながら、同時にとても滑らかに動くエンベロープ・ディテクターです。変わった趣味だと思われるかもしれませんが、そんな「速くて滑らかな」エンベロープ・ディテクターを考えることは、私の楽しみのひとつになっています。

これまでにも面白い設計をいくつか生み出してきましたが、そのうちのひとつが、このエンベロープ・シェイパーに必要な条件を、ぴたりと満たしてくれました。音の最初のアタックをディケイから切り分けられるほど素早く、しかもサステインやリリースに歪みを生じさせないほど滑らかに動いたのです。

これがうまく動いたとき、もう作るしかないと思いました。録音済みの音であっても、そのエンベロープをシンプルかつ直接的にコントロールできる、シンプルでわかりやすいプラグインを。

4本のスライダーと、セパレーション・コントロール(4つの部分をどれくらい明確に分けるかを調整する機能)。それがArticulateです。

5. ArticulateとPunctuate、何が違う?どう使い分ける?


Punctuate

勘のいい読者なら、Articulateのようなエンベロープ・シェイパーは、トランジェント・モジュレーターとよく似ていることに気づいたかもしれません。そして、私たちにはすでに、Punctuate(音の立ち上がりなどを整えるトランジェント・シェイパー)という製品があります。

面白いことに、ArticulateとPunctuateは、メーター部分を除いて、DSP(デジタル信号処理)のプログラムを1行も共有していません。でも、大事なのはそこではありません。知りたいのは、「どんなときに、どちらを使えばいいのか?」ということですよね。

いちばん大きな違いは、Articulateがミキシング(各楽器やボーカルをまとめる工程)用として、Punctuateがマスタリング(完成したミックスを仕上げる工程)用として設計されたことです。

Articulateはレイテンシー(処理によって生じる音の遅れ)が小さく、音の処理に必要な計算量も比較的少なめです。また、主にドラムや、ギター、ピアノ、ベースといった単体の楽器、さらにはボーカルを使って調整してきました。とはいえ、マスタリングエンジニアの皆さんも、Articulateで素晴らしい成果を上げています。実際、マスタリング向けのプリセット(あらかじめ用意された設定)もいくつか付属しています。

一方のPunctuateは、ミックス全体に使う、トランジェントの調整に特化したプラグインとして設計しました。音の立ち上がりなどの瞬間的な変化、つまりトランジェントが発生している周波数帯域だけを狙って、その成分を強調したり、抑えたりできます。

このように対象を絞って処理することで、音そのものを大きく変えずに、ミックスの印象を変えられます。ただし、PunctuateはコンピューターのCPUへの負荷が大きめで、レイテンシーも大きくなります。また、調整できるのはトランジェントだけで、エンベロープ全体ではありません。

私は、どちらにもそれぞれの使いどころがあり、価値のあるプラグインだと思っています。でも、最後に決めるのは皆さんです。

そして、その判断は、ArticulateやPunctuateを試して、ご自身で確かめていただくのが一番でしょう。

それでは、いい音の形を作ってくださいね!

 


本記事は、Newfangled Audio公式ブログの記事を、メーカーの許諾を得て日本語翻訳・編集したものです。