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Arkaos来日記念インタビュー Marco Hinic with VJ SINO

(2015/11/26)

主に音楽に関わる機材やソフトウェアを扱うディリゲントが、プロジェクションマッピング対応の映像ソフトウェアArKaos GrandVJシリーズの取扱いをしている事について、不思議に思う方もいるかも知れませんね。
GrandVJシリーズは、もともとクラブイベントやコンサートなどで映像のミックスを行うVJ達のために開発されたソフトウェアだったため、その誕生の経緯を考えるとむしろ音楽抜きには語れない製品だったりするんです。

2015年11月、ArKaos創設者であり現CEOのMarco Hinicさんが来日した際、日本人VJのVJ SINOさんを交えた対談形式のインタビューを行いましたので、その辺のArKaosブランド誕生秘話を含めた裏話をご紹介します。

Arkaos CEO Marco Hinic

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Dirigent (以下D):
ArKaosブランドを創立した、一番最初のステップは何だったんですか?

Marco:

23年前、1992年の話なんですが、その頃私は自分で電子音楽をつくっていて、その時に、一つの鍵盤を押すと一つの画像が出てくるような、映像を演奏する「ビジュアルピアノ」的なソフトウェアがあったら面白いと思ったのがきっかけです。
まずは1年ほど掛けてシンプルなアプリケーションを作成して、自分の音楽とともに使用していたところ、回りの友人やそのまた友人達が「これ最高に面白いじゃないか!」と言い出し、本格的にソフトウェアの開発を始めました。
きちんと販売できるソフトウェアになるまではさらに数年掛かりましたが、1996年にベルギーのブリュッセルで展示会に出展した際、「1996年の最も革新的な製品」賞を受賞した事がきっかけで一気に話題となり、正式にArKaos社を設立して販売を始めました。

VJ SINO:

もともと自分で音楽をやっていて、その音楽に映像を加えたいという動機でプログラムを作られたという事ですか?

Marco:

はい、自分の音楽のために作りました。
当時は趣味で電子音楽の制作をしながら、ビデオゲームの開発者として働いていたので、スクリーン表示や映像出力といった、開発に必要な基礎知識を持っていた事はラッキーでしたね。
別々に作った音楽と映像を合わせるのではなく、音楽を作りながら映像を同時に合わせていくという作業は、表現者としての自分にはとても重要だったんです。

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D:
現在では、GrandVJの他にもたくさんのVJソフトウェアがありますが、Marcoさんの考える、GrandVJの強みとは何でしょうか?

Marco:

大きく2つの点があります。

まずは、とにかくシンプルであること。私たちのソフトウェアには非常に多くの複雑なテクノロジーが使われていますが、それは実際にパフォーマンスをするユーザーたちには全く関係の無いことです。

様々なコーデックの映像素材が混在していたり、複数のエフェクトを重ねて使用したり、目まぐるしいスピードで映像を切り替えたり、なんでも思いついたアイデアがすぐに実現できればそれでいいのですから。

d-fun161_3.JPG私たちはテクノロジーを自慢するためにソフトウェアを作っているのではなく、クリエイターやアーティストのアイデアを具現化するためのツールを作っているんです。

もうひとつは、動作の安定性です。

私は根っからのエンジニアですし、ArKaosはソフトウェアの開発会社ですから、動作の安定性というのは他の何よりも重要な要素で、一番こだわっている部分でもあります。

GrandVJが使われているのは、デスクトップPCやノートPC、タブレットPCなどの多様なプラットフォームで、さらにそれぞれが使用される状況も様々です。

どんな環境でも安定して最大限のパフォーマンスで動作するソフトウェアにするために、とても多くの労力を費やしていますね。

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VJ SINO:

もともと他のVJソフトを使用していましたが、初めてGrandVJを使った時は、取説を見ずに30分程度触ってほぼ操作や設定は理解できました。
先日、大規模なHalloweenイベントでVJをしたときは、映像用ではない通常のPCを使ったのに10時間ほどの長丁場でも一度も落ちずに安定してプレイが出来ました、他のソフトではなかなかこうは行きません。どうもありがとうございました。

Marco:

こちらこそ、嬉しい話を聞かせてくれてありがとうございます。

たまに「◯◯搭載でスペックは◯◯以上のパワフルなコンピューターを使う事」のような条件がついているソフトウェアがありますが、そのやり方はGrandVJにはふさわしくありません。
高価な専用PCの使用が前提であれば、もっともっと多くの機能を短期間で追加できるでしょう。
でも私たちは、多くのVJがノートPCを使用していること、デスクトップPCの持込みができるような現場や常に最新のPCを用意できる人はとても少ないことを知っています。

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VJ SINO:

今の話を聞いて、さらに安心しました。「VJ始めたいけど、どうしたらいいの?」というような質問を良くされるので、「とりあえずGrandVJを使ってみれば?」と答えています。

Marco:

これからVJを始める人にとっては、先ほど話した「シンプルさ」の重要性が分かってもらいやすいでしょうね。
難しいテクノロジーは全てGrandVJの裏側に隠してありますから、操作方法を勉強する時間なんかより、ミックスのアイデアであるとか、コンテンツの制作などに多くの時間を費やして欲しいです。

D:
GrandVJがバージョン2になった時に、プロジェクションマッピングに対応した機能拡張版のGrandVJ XTが追加されました。
この大きな進化は、ユーザーからArKaosへの要望だったのか、またはArKaosからユーザーへの提案か、どちらだったんでしょう?

Marco:

これは、我々ArKaosからユーザーへの提案です。実はGrandVJの前身だったArKaos VJというソフトウェアには、すでに簡単なプロジェクションマッピング機能が入っていたんですけどね。
一番最初、画像の切替えをするソフトウェアとしてプロトタイプを作り、画像だけでなく動画のループ素材に対応して、やがてミックス機能がつき、そして複数の映像出力をサポートするなど、順を追って徐々に進化してきました。
常にユーザーやアーティストたちと対話しながら、次に技術的に可能な機能はなんなのか、現場で次に必要とされる機能はどんなものかを考え続けてきた必然的な結果かも知れません。
GrandVJ2の開発にあたっては、既存のGrandVJユーザーがすんなりと移行できるように、プロジェクションマッピングを行うためのVideoMapperというプラグインをGrandVJの操作パネル内に統合する必要がありました。
実は、プログラムの機能的な部分の開発よりも、ユーザーが使いやすいインターフェスにするためのレイアウトデザイン的な作業の方が、遥かに時間と手間がかかっているんです。

VJ SINO:

私は、マッピングを行う際はGrandVJ XTではなく、2つのソフトウェアを併用して行っているんですが、GrandVJ XTを使用している友人達を見ていると、一つのソフトウェア内で作業が完結できる環境というのは、とてもシンプルでセッティングが楽そうだし、うらやましく思っていました。

Marco:

VideoMapperは今後もさまざまな機能が追加されてどんどん進化していきますので、期待してください。

 

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プロジェクションマッピングやVJを教える学校?

Dirigent (以下D):
ヨーロッパやアメリカでは、学校などでプロジェクションマッピングを学ぶ機会が増えてきていると聞きました。その中でGrandVJはどのように使われているのでしょう?

Marco:
私たちArKaosの地元ベルギーでは、いくつかの学校と提携して、授業項目の中に約35時間程度のプロジェクションマッピング専門コースを設けています。
ここでGrandVJが選ばれたのは、先ほど話した「どんな環境でも安定して最高のパフォーマンスができる」ソフトウェアであることが決め手です。
すでに学校に設置されていたコンピュータは、MacやWindows、最新モデルから古いマシンまで様々な種類がありましたが、新たなコンピューターを揃える事無く、全てのマシンでGrandVJを使用できたのです。

D:
そこで学んだ生徒達は、卒業後どのようにその経験を生かしているのですか?

Marco:
その学校は、コンピュータグラフィクスについての知識全般が専門なので、卒業生はCG制作などの仕事に就くことが多いですね。
プロジェクションマッピングの授業で、制作したCGをコンピューターのディスプレイ以外の場所にどう投影するか、という試行錯誤が体験できるので、これまでとは違った視点での創作ができるようになると、かなり好評です。
また、映像のミックスについての知識を学ぶVJのカリキュラムが始まった学校もあります。
プロジェクションマッピングやVJを学校で教えるとは、面白い時代になってきましたね。

こんなに簡単だったの?

D:
最近日本では、高校や大学の文化祭でプロジェクションマッピングをするとか、CG系の専門学校などでVJの研究をやってみた、なんてお話を聞く事が多くなってきました。SINOさんがVJをされている現場では、そういった経験をした若いVJさん達は増えているのでしょうか?

 

VJ SINO:
実は最近まで、週一回の教室のようなかたちで、VJ&DJの勉強会を2年間ほどやっていたんですよ。
もちろん一人では出来ないので、毎回色んなジャンルの詳しい人たちを集めて、イベント的にやっていました。
その時にはじめてVJに興味を持った人で、いまageHaで一緒にVJしたりする人もいます。
もっとオフィシャルというか、きちんと学べるところが増えれば、VJのジャンルも広がっていくと思います。

Marco:
ベルギーでも最初は現役VJやクリエイター達がSINOさんのような活動を始めて、それがだんだん広まって学校のカリキュラムにも入りました。この流れはヨーロッパ各国で同じように広まりつつあり、アメリカでも最近始まったと聞いています。

VJ SINO:
教室でVJやマッピングを教える経験で思ったのは、プロジェクションマッピングとかVJに触れた事が無い人たちには、それが物凄く難しいことに見えているんだなと。
で、実際にソフトウェアを触ってやってみると、なんだこんなに簡単だったの?ってなるんですよ。
もっと音楽や映像に興味のある人たちが、そういう技術に触れられる入り口がたくさんあればいいのに、と思います。

Marco:
おっしゃる通り、我々もそこをとても重視しています。GrandVJの基本コンセプトの話に戻ってしまいますが、テクノロジーの部分は全部ソフトウェアに任せて、VJやクリエイター達は自分のパフォーマンスとか作品制作に集中してもらいたいですね。

 

小さなイノベーションの積み重ねが大きなイノベーションとなる

D:
ArKaosの創業者&開発者として、仕事をしていて一番楽しい瞬間というのはどんな時ですか?

Marco:
ArKaosはそんなに大きい組織ではなく、コアとなるメンバーがオフィスに10人程、その他のメンバーがEU内に分散していて、全部で20人ちょっとの小さなチームです。
でもそれぞれとても個性的で魅力ある人が揃っていますけどね。
小さいなチームなので、みんなが一つの方向に向かって、熱意を共有しながら仕事ができていると思っています。

たとえば、そんな少人数のチームの誰かが考えた、ちょっとした新機能が実装されるとか、チームの誰かが遠く離れた国のユーザーをサポートして問題解決するとか、毎日の業務は小さい事の積み重ねです。
でもふと気が付くと、その新機能が大きなショーの演出で活用されていたり、そのユーザーがGrandVJで誰も見たことが無いような作品を作っていたりするんです。
そんな時に、「私たちは、ほんの少しだけ世界を変えたんだ!」という実感が湧いてきて、小さくガッツポーズするんです。

そのような分かりやすい例以外にも、5年10年の単位で振り返ればもっと色んな事があるでしょう。
自分たちが積み上げてきた小さな事が、確実にこの世界に変化をもたらしていると感じる瞬間が一番嬉しいし、10年先、20年先へのモチベーションの源になっています。

D:
日本のGrandVJユーザーは完全に異なる2通りのタイプに別れていて、ひとつは、主にプロジェクションマッピングのために使用する企業や団体、もうひとつはVJをメインで行う個人ユーザー、という感じです。
日本以外の国では、どのような状況ですか?

Marco:
ヨーロッパでは、VJとプロジェクションマッピングとの間の垣根はそんなに高くないんです。
VJがプレイする時に、投影にプロジェクションマッピングを使うのは普通になってきていますしね。
GrandVJでは、緻密な映像ミックスをするためのミキサーモードと、直感的に映像を重ねたり切り替えたりするシンセモードの、2種類のインターフェースを用意しています。
ミュージシャンがVJを始めたい場合はシンセモードをおすすめするし、CG制作者だったらミキサーモードがマッチするかも知れません。
そもそもそんな風に色々なユーザーを想定していることもあるので、タイプ分けしようと思ったら2どころか、数えきれない程ですよ。

VJ SINO:
私自身も、マッピングを取り入れたVJプレイをしていますので、Marcoさんのご意見はよく分かります。
ただ、平面を切り取ってあちこちに配置する手法のマッピングは簡単にできますけども、建物が動いてみえるような、複雑な3Dマッピングの場合は、まだまだ専門家に任せた方がいいとは思います。

Marco:
プロジェクションマッピングをするにあたっては、平面の分割配置が最初のステップで、それから3Dの立体物というのが一般的ですよね。

 

日本のユーザーに向けて

D:
日本のGrandVJユーザーに対して、もっとGrandVJをこう使って欲しい、というような希望はありますか?

Marco:
いい質問ですね。この機能をこう使って欲しい、と私たちの考えを押し付けるのではなく、どんなソフトや機能が求められているか、の方が私たちにとっては重要です。
そのため、世界のさまざまなマーケットで、どんな風にGrandVJが使われているかを知るために頻繁に各国を訪れていて、特に日本は出来る限り毎年来るようにしているんです。
それぞれのユーザーが世界中で違った使い方をしているソフトウェアですので、どれだけ多くのユーザーの声を聞けるか、というのは私たちが今後の開発の方向性を決めるにあたって、とても大事な要素になりますからね。
言ってみれば、その質問の答えを知るために今ここに座っているようなものですね。

VJ SINO:
日本人ユーザーの一人として提案させてもらえると、VJソフトって、この先いろんな機能が追加され得ると思うんですよ。
プロジェクションマッピングだけでなく、素材のジェネレートだったり、全く別の新しい機能だったり。
その時に、操作がごちゃついたりしないよう、ユーザーが必要な機能をチョイスして追加していけるような、別々の引き出しを持つみたいになって欲しいですね。
ビギナーはシンプルに、慣れてきたら複雑なカスタマイズもできる、とかが理想です。

Marco:
いかに操作をシンプルにするかという解決策の一つとして、そういうアイデアも面白いですね。

D:
最後に、このインタビューを見てくれる日本のユーザー達に、一言コメントをお願いします。

Marco:
このインタビューを通じて、私たちがどんな事を考えて開発を進めているか、少しでも感じてもらえたら嬉しいです。
ユーザーのみなさん、GrandVJについて何かリクエストやご意見があれば、気軽にどんどん私たちやディリゲントに伝えてください。
あなた達とのコミュニケーションを通じて、GrandVJはまだまだ進化していくでしょう。
ぜひ私たちArKaosと一緒に、少しだけ世界に革新をもたらす、という体験を共有してください。お待ちしています。

VJ SINO:
シンプルさと機能性を両立したまま、どんな進化を遂げていくのか楽しみにしています。

Marcoさん、SINOさん、長時間の対談にお付き合いいただきありがとうございました。
このインタビューをご覧になったみなさん、ディリゲントに寄せられたリクエストはビシビシMarcoさんに送りますよ。彼らがユーザーとのコミュニケーションを重視しているのと同じく、ディリゲントも、引続き全国でイベントやセミナーを開催していきます。VJ/プロジェクションマッピング体験会のご要望も受け付けていますので、コチラよりお気軽にお問合せ下さい。ではでは。

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VJ SINO:阿佐ヶ谷美術専門学校プロダクトデザイン科卒、2010年よりhouse/technoのDJとして渋谷、高円寺cave中心に活動を開始、2011年よりVJ活動をスタート、2012年emoとVJグループFantastic Plantを結成。豊富な音楽体験とデザインスキルをベースに、音楽を視覚的に表現するマッピングやVJスタイルは、ジャンルを問わずDJ/オーガナイザーやアーティスト達に評価されている。都内各所のclub、Live houseや野外Rave、各種イベントのデザインサポートで活躍中。DVSG(DJ VJ STUDY GROUP)主催/幻想製造装置 Fantastic Plant 主催/Viral所属

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