(2014/06/06)
Mixcraftの魅力をお伝えしている本連載。ここ数回は、マスタリングを取り上げています。
前回は、以下の点について説明を行いました。
- ミックスが終了した時点の音量レベルについて
- 音量と音圧の違いについて
マスタリングは、楽曲制作においての最終行程のため、音量レベルはとてもシビアに調整します。そのため、ミックスの時点で、クリップはもちろん論外で、あまり音圧が高すぎてもマスタリングで出来ることに制限が出てきてしまいます。
今回は、前回ご紹介した音圧についてさらに深く掘り下げてみたいと思います。
音圧競争
音圧とは、聴感上の音量のことでしたね。最大音量は0デシベルと決まっていますが、「音量が大きい部分を小さくし、全体的な音量を上げる」ことで、音圧が上がります。
では、何故音圧を上げる必要があるのでしょうか?これは言葉で説明するよりも、体感していただくことが一番だと思うので、以下の音源を用意しました。何も考えずに、聞いてみてください。
同じ楽曲が、続けて流れました。前半に流れた曲と、後半に流れた曲、どちらが印象に残りましたか?
人の感覚は様々なので一概には言えませんが、後半の方が印象に残ったのではないでしょうか?
前回の記事をご覧いただいた方は、「後半の曲は、音圧が上がっているな」と勘づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、その通り音圧を上げています。音圧を上げると、全ての音がハッキリ聴こえるため、派手に聴こえます。
そのため、ラジオやテレビなどで曲が流れる場合、他の曲より音圧が高いとそれだけで目立つ場合があります。
これらの理由より、「音圧は高ければ高いほどいい」という風潮があっという間に広まりました。
この背景にはマスタリング技術の進化が大きく関わっています。以前はマスタリングも、アナログ機器のみでの作業でしたが、デジタルの発展に伴い、アナログ機器での作業に比べ、より精密なマスタリングが行えるようになります。
そのため、以前は不可能だった限界ギリギリまで音圧を上げることができます。だから、昔のアルバムを今のアルバムと比べると音が小さいんですね。
音圧を上げすぎる危険性
音楽は、クラシック、ジャズ、ヒップホップ、ロックなど様々なジャンルがあります。一概に音楽といっても、ジャンルによって音楽的な特長は様々です。
そのため、マスタリング・エンジニアも音楽ジャンルによってマスタリングの処理を変えなければいけません。
例えば、最初から最後までガンガンに音が鳴っているメタル・ミュージックなどは、音圧が高い方が迫力が出ます。
しかし、クラシックやジャズなどは、曲中の抑揚が重用視されます。この抑揚とは、音の強弱や音量差のことですが、これらを「ダイナミクス」といいます。
ダイナミクスを感じていただくために、以下の音源を用意しました。
全く同じフレーズですが、後から流れたフレーズの方が、音圧を高くしています。しかし、「どちらの処理の方が、より自然か」というと、前半の処理だと思います。
先ほども書きましたが、クラッシックやジャズなどは曲中の抑揚が魅力の1つです。演奏者や指揮者は、明確な意図をもって音量に差をつけているのに、マスタリングでこの抑揚を無くしてしまうと、曲の魅力をつぶしてしまうことになります。そのため、何が何でも音圧を上げることが正解ではありません。
また、音圧を上げ過ぎる危険性として、音の立ち上がり部分が失われることも注意してください。
例として、同じドラム・フレーズに異なった処理をした2つの音源を用意しました。
- 音源 A:音の立ち上がり部分を残すように、音圧を上げたドラム・フレーズ
- 音源 B:音の立ち上がり部分をつぶして、音圧を上げたドラム・フレーズ
以下の音源は、音源 A → 音源 B → 音源 A → 音源 Bという順番で流れます。
後半に流れるフレーズの方が若干音圧は高いですが、ドラムの「バシッ」っという尖った音の感触が失われています。
この状態を図で表してみました。
上の図の赤丸部分が、音の立ち上がり部分です。この立ち上がり部分を「アタック」とも言いますが、音圧を上げ過ぎると、アタックが失われることがあるので注意が必要です。アタックが失われてしまうと、どのような音になるかは先ほど聴いていただきましたね。
上記のような理由から、「音圧をギリギリまで上げることだけが、正解ではない」ということを覚えておいてください。
また、クラシック音楽などについての曲中の抑揚について書きましたが、どんな場合も全く調整しないわけではありません。ダイナミクスがつき過ぎていて、曲が聴き辛くなっている場合は調整を行うこともあります。
あくまで、ケースバイケースです。
また、こういった理由から普段から様々なジャンルの音楽を聴くことが、良いマスタリングに繋がります。ただ聴くだけではなく、「どのくらい音圧が出ているか」「どのくらいアタックが感じられるか」「どのくらいダイナミクスがあるか」と、考えながら聴くと尚良いと思います。
なお、音のアタックやダイナミクスなどの細かな部分を感じるためには、モニター環境(マスタリングなどを行う際の、音を聴く環境)も大切です。これらはコンピュータの内蔵スピーカーでは感じにくいため、Reloop WAVE 5やWAVE 8などのモニター・スピーカーを使うだけでマスタリングに変化があります。
どの程度変わるか試してみたいという方は、弊社のReloop WAVE 5、WAVE 8のレンタルサービス※をご利用ください。
※レンタルサービスは終了しました。
それでは、今週はこの辺で。それでは!
- 前回記事:音量?音圧?何が違うの!?
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