studio MASSインタビュー:クリエイター/エンジニア編
若手のユニークなクリエイター/エンジニア集団がいる、しかもみなさんFabFilter製品を愛用しているという噂を聞き、studio MASSに伺いました。
studio MASS —— 各ジャンルに特化した“尖ったエンジニア”たちが集う気鋭のエンジニア集団です。「次世代の音楽体験をチームで創りあげる」という理念のもと、楽曲ごとに最適なメンバーをアサインし、互いにフィードバックを重ねて作品のクオリティーを高めていくというユニークな制作スタイルをとっています。
一軒家の二階を改造した作業スペースに効率よく機材が並べられていて、ミックスだけでなくレコーディングを行えるようにもなっているようです。
オーナーの諸石氏はマスタリングエンジニアということでしたが、集まってきたクリエイターにはエンジニアだけではなく作家、アレンジャー、ミックスエンジニアなど、バラエティーに富んだ方々がいらっしゃいました。若手クリエイターが切磋琢磨する場所、最近はあまり見かけなくなりましたが、そういう雰囲気が漂ういい場所でインタビューを行いました。今回はすごく長いインタビューになったので、前半をクリエイター、エンジニア編、後半をマスタリングエンジニア、作家編に分けてお届けすることにいたします。
studio MASSの成り立ちと参加メンバー
studio MASSにクリエイターが集まりだした理由ってあるんですか?
酒井:オーナーの諸石さんがTwitter(現X)で募集されているのをきっかけに集まるようになりました。
山本:私は正式な募集ではなくて、元々オーナーの諸石さんと関わりがあったことからたまたまお声掛けいただきました。
みなさんの簡単なプロフィールを教えていただけますか?
寺村:寺村 啓吾(てらむら けいご)、hmc studioにてレコーディングエンジニアとしてのキャリアを積んだ後、現在フリーランスのエンジニアとして活動しています。
酒井:酒井 渓(さかい けい)、宮崎県出身です。バンド活動終了後、エンジニア、ギタリスト、コンポーザーとして活動を始めました。現在は、様々なアーティストやプロジェクトの楽曲制作、レコーディング、ライブサポート、マニピュレーションなど幅広く活動しています。
山本:山本 匠(やまもと たくみ)、北海道出身です。作家としてHoverboardという作家事務所に所属しながら、studio MASSでは録音やミックスを担当するエンジニアとして在籍しています。
愛用するFabFilterプラグインとその魅力
FabFilter製品は何をお使いでしょうか? また、使ってみた印象はいかがですか?
寺村:FabFilter製品の中でいちばん使用頻度が高いのはSaturn 2ですかね。マルチバンドでサチュレーションを調整することができて、録音時にはあと一歩突っ込めなかったところを後から調整できるところが気に入っています。一つの楽曲の中にレコーディングスタジオでの録音と宅録が混在している場合、どうしても宅録の音がうまく混ざらないことが多く、そのときにSaturn 2で調整していくと気持ち良く混ざってくれることが多いです。宅録を行う方にもおすすめです!!
Saturn 2
酒井:Pro-L 2、Pro-Q 4、Pro-DS、Saturn 2、Pro-C 3ですかね。
Pro-Q 4のダイナミックEQは意図した音に持っていく処理がしやすく気に入っています。Saturn 2は、マルチバンドでサチュレーション処理ができるのが大きいと思っていて、金物の高域部分のみを歪ませたりするなど自由度の高さが気に入っています。あと、モジュレーション機能を使うことでシンセサイザーのようにクリエイティブなサウンドデザインにも使えて、とても楽しく便利です。
Pro-Q 4
山本:Pro-L 2、Pro-Q 3、Pro-MB、Pro-DS、Saturn 2を使っています。中でもPro-Q、Pro-MB、Pro-L 2はどれも同じくらい気に入って使っています。Pro-Qに関しては、イメージをいちばん早く反映させることができると思っています。これは作業において非常に重要で、特にPro-Qは一つの画面上に必要な機能が揃ってるのが良いですね。機能が多いものだったり、パラメーターを追い込めるプラグインもありますが、それに時間がかかってしまう気がするので……。あと、私はマスタリングエンジニアではないので、色々リミッターを試してみても結局Pro-L 2に戻ってきてしまうんです(笑)。
Pro-MBはボーカルなどで、ハーシュネスを抑えつつ抜けを出したい場合などでよく使用しています。細かな機能を除けばプラグインをインストールして、立ち上げればマニュアルを読まずに使えるというのは素晴らしいと思います。みなさんにおすすめできます。
Pro-MB
使用するEQプラグインによって処理後の音質や質感に違いが出ることがありますが、どのように捉えて使用されていますか?
寺村:音の違いよりは、イメージを早く反映させられるかの方が大きいと思っています。そういう観点からPro-Qがもっとも適していると考えています。プラグインによる音の違いも織り込み済みで操作しているので、そこはEQ設定後の音がどうかで判断しています。
山本:Pro-Qは比較的音が柔らかめという表現をされることもありますが、基本的には私も同じですね。クラシックやソロ楽器などではその変化が適さない場面もあるとは思います。ですが、POPSにおいてはほとんど気にしていません。良し悪しよりも、各プラグインのキャラクターや癖をしっかりと理解して使用することが大切だと思います。
Pro-Q 4の中で多用する機能はありますか?
一同:ダイナミックEQですね。
寺村:ダイナミックEQやMS処理などを使うことが多いですね。ダイナミックEQの設定がデフォルトで良い感じで素早く作業を行えたり、MS処理時のUIがわかりやすいのでよく使いますね。
酒井:寺村さんと同じくダイナミックEQ機能を多用しています。ダイナミックEQのデフォルトの設定が良いのはもちろん嬉しいポイントなのですが、ダイナミックEQの各バンドごとにアタック、リリース、スレッショルドにも簡単にアクセスできるので微調整の際によく使いますね。
山本:基本的には特に色づけを必要としていない場合のファーストチョイスです。本当にシンプルなEQとしての使い方がメインです。ダイナミックEQもよく使います。
ダイナミックEQ —— 特定の帯域のレベルに応じてEQが動き、必要な分だけ処理できる
他製品と比べて優れている点はどこでしょうか?
寺村:最近は似たような機能を持つEQが増えてきていますが、他より圧倒的に(動作が)軽いのと、操作性がわかりやすく作りたい音に近づくのが圧倒的に早いです。そしてストレスがなく、ちゃんとクリエイティブに使用ができるEQだと思います。一つで完結できる場合も多いと思います。
酒井:とにかくUIが優れていると思います。今、どのような処理をしているかが一目で確認できる点が優れていると思います。あと、ドングルがいらないところ、複雑な階層が少なく触りたい機能にすぐにアクセスできるところもいいですね。
山本:圧倒的なUIのわかりやすさと、動作の軽さでしょうかね。私はミックス時、特に「速さ」を大切にします。思ったことに、できるだけ少ないプロセスで到達できることが重要だと思っているんです。
私の場合はミックスだけではなく作曲時などにも使うのですが、CPU負荷やレイテンシーのことを気にしなくていいという面でも助かっています。
数多くあるプラグインで何を使うか選択する際の意思決定はどのようにされていますか?
寺村:キャラクターづけや、大きく変化をつけたい場合は、アナログエミュレートのEQプラグインを使うことがありますね。最終的な微調整はPro-Qをメインに使っています。
酒井:他社製品にしかできないことがあれば、それを選択することになりますね。 ケースバイケースで意図した処理が最短でできるものをその都度選択するようにしています。
山本:先ほどの話で出たように、明確な色づけをしたい場合やかなり強気なEQをしたい場合(10 dB以上ブーストするなど)には、どうしてもアナログエミュレーションのプラグインに軍配が上がってしまいます。 それ以外ではPro-Qがファーストチョイスですね。
どのようなチェーンで使用されることが多いですか?
酒井:プラグインを適用するソースによってケースバイケースですが、シンプルなデジタルEQ(Pro-Qなど)でまず音を整えた後に他のエフェクトを適用することが多いですね。
音作りのこだわりとトラブルシューティング
レコーディング、ミックス時の音作りにおいて大切にしていることはありますか?
寺村:レコーディング時では、ブースでミュージシャンが鳴らしている音、鳴らしたい音がストレスなくコントロールルームでも鳴るように気をつけています。ミックス時では、どんな環境でも楽曲の意図が伝わるように最善を尽くすようにしています。
酒井:アーティストの意図やイメージをくみ取り、それを最大限形にすることはもっとも大切なのかなと思っています。アーティストの魅力をスポイルしてしまわないことに気をつけています。
山本:“less is more”という考え方が好きです。ミックスでは音楽の中からストレスを取り除いていく感覚を常に大切にしています。また、楽曲の中で「音そのもの」が変わることは恐れず、しかし楽曲の中での「役割」が変わってしまわないように、ということも常に心がけている一つです。
イコライザーを使う上での失敗談はありますか?
寺村:大きく削ったり、上げたりしすぎて後日聴いたら変な音になっていたことがありますね。
山本:今はさすがにありませんが、特にPro-Qのように自分でポイントを増やせるEQでは無駄にポイントを増やしすぎてやりすぎている、なんてことはよくあると思います。
その反面、耳で判断するのではなく目で見て「ブーストしすぎているな」などと思い、適切な処理ができていないときも多かったと思います。
それらをどのように解決し、克服されましたか?
寺村:コンプの失敗談・解消法に似てしまうのですが、いくつか個人のリファレンス楽曲や、アーティストとのリファレンス楽曲と聴き比べたときに、かけ離れてしまっていないかなどを確認することや、ソロで聴かずに楽曲全体での立ち位置を考えてEQを触るなどで解決しました。単体で聴いたときに良くても全体で聴いたときにはちゃんと混ざっていなくて、意図してない聴こえ方のときもありますからね。
山本:先ほどの失敗談は技術的なようで、意識の部分が大きかったと思います。結果ではなくプロセスそのものに意識が向いてしまっていたせいで起きた失敗でした。
韓国にセミナーを受けに行った際にManny Marroquinが「20分以内で一曲をミックスする練習をしなさい」という話をしていました。これは右脳を使えるようにするというトレーニングの目的が大きいのですが、プロセスではなく、目的や結果を常に意識するという感覚を養うのにとても効果的だったと思います。
音がどうしてもこもってしまう場合などの対処法はありますか?ローカットは使用しますか?
酒井:ローカットの処理についてはケースバイケースだと思いますが、自分の場合はローカットで解決するのではなく、ローシェルフのダイナミックEQで処理することで解決できる場合が多い気がしています。
また、音のこもりと低域が気になる際は、思い切ってPro-QのTiltで高域を持ち上げる処理をすることが多い気がしています。
Tilt-EQ —— 低域と高域のバランスを傾け、全体のトーンを調整できる
コンプレッサーを使うときに陥りやすい失敗は何でしょうか? また、それを解消し、防ぐためにはどうしたほうがいいでしょうか?
寺村:一つのモニターでコンプをかけていると、楽曲に対してコンプレッサーをかけすぎたり、足りないことに気がつけないことがあるので、できるだけ複数のモニターで確認することをおすすめします。EQでもそうでしたが、夜遅い時間に作業した場合、次の日の朝聴き直すと思った通りになっておらず、やり直すことが多々ありました。
酒井:よくある例だとかけすぎが多いと思いますね。楽曲に対して本当に意図した処理をできているか、一度バイパスして確かめるのが良いと思いますよ。
山本:多いのはやはりかけすぎてしまうことではないかと思います。私の場合はリダクションを聴くのではなく、響きの安定感みたいなものを聴いて判断しています。アタック/リリースの設定が適切じゃなく、楽曲のグルーヴとマッチしていない、ということも多いと思います。コンプに限らずですが、極端に小さな音量でモニターチェックすることで過度な処理に気づくことができるのでおすすめです。 できれば一晩寝かせて翌朝聴くことも大事です(笑)。
ミックスしてから時間を置く場合はありますか?
寺村:あります!様々なミックスを並行して作業した後で、再度聴くようにしていて、一日置くこともあったり、ランニングなどでリフレッシュした後に聴くようにしています!
酒井:ありますね。集中して長時間作業していると客観的に判断できなくなるので、ポモドーロタイマーを使用して時間管理をしたり、様々なミックスを並行して作業したりしています。また、音を大きく作り込む際と、外科的な処理をする際など別のタイミングで作業したり。他の作業をしてから聴き直すこととかもあれば、一日置くこともありますね。
山本:一晩で完成できる場合もありますね。最終的に小音量で確認して、その際の聴こえ方に問題があれば破綻しているという考え方でいます。
ですが、最近は納期的に余裕があれば一晩寝かせて、冷静な耳で翌日確認するようにすることが多くなりました。
イコライザーを使ったとき、それが良いかどうかどのように判断をするようにしていますか?
寺村:他プラグインにも同様のことが言えますが、音量の変化がある場合は必ずインとアウトで音量を揃えてからバイパス確認しております。音量変化に惑わされずに本当に必要な処理を行えているのかの確認が大切だと思います。リミッターになってしまいますが、Pro-L 2の1:1も多用しております。リミッティングで音質にどのような変化が起きているのか確認できるので、この方法が良いかと思っています。
1:1(Unity-Gain) —— 音量差をなくし、リミッターによる音の変化だけを比較できる
酒井:ケースバイケースですよねぇ……。具体例を挙げるのはちょっと難しいなぁ。
山本:私はメインのモニターとしていまだにYAMAHA NS-10M Studioを使用しています。その大きな理由の一つに、EQした際の相互変化がわかりやすいというのがあります。とにかく自分のモニターの音で、リファレンスの楽曲を聴き込むことが大切です。
EQがインサートされているとき、常にそれがいい結果につながっていなければならないので、寺村さんの言うようにバイパスして良くなっているかどうか、チェックしています。
Pro-Q 4をおすすめしたいユーザー
Pro-Q 4はどんな人におすすめできますか?
寺村:誰にでもおすすめできると思います。Pro-Qはマニュアルなども確認せずとも見てわかるような機能が多いのでとても扱いやすいと思っています。
一同:ほんとそれですね。

studio MASS
新しい音を創るエンジニアリングチーム
2012年にMasaoki Moroishi氏のプライベートスタジオとして発足。現在はエンジニアリングの新しい可能性や、音楽制作の新たな形を追求する場として、さまざまなクリエイター/エンジニアとパートナーシップを結んで活動している。
「技術の革新を恐れないこと」を掲げ、各メンバーの専門領域を活かした最適なチーム編成によるミキシングや、徹底した電源・ケーブル・モニター環境にこだわるマスタリングを提供している。
























