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プロが選ぶ FabFilter:ArmySlick

都心の素晴らしいロケーションにひっそりと佇むStudio bvtrnx.me。

ついついくつろいでしまいそうになるくらいいい雰囲気を醸し出しているArmySlick氏のスタジオでインタビューをさせていただきました。

初対面の時に「Saturn、めっちゃ使ってるんですよ!」と話してくれた彼に音作りのこだわりやSaturn 2の魅力、使い所をたっぷりと語ってもらいました。

ArmySlick

音楽的なバックグラウンドを教えていただけますか?

ArmySlick:中学の頃はベースを弾いたのですが、バンドをやるような人が周囲にいなくてYAMAHAのQYとカセットMTRを譲ってもらってそれらを駆使してQYとベースの多重録音をして遊んでいました。その後、パソコンで打込むようになってMIDIでシンセを鳴らしていたのですが、しばらくしてからパソコンで録音できるようになってそっちに移行していったという感じでした。

十代の頃はバンドに熱中して、そこから打ち込みをやるようになってヒップホップやハウスを作るようになり18歳のころから30歳くらいまでずっとハウスを作って大学生や社会人の間もトラックを作っては海外のレーベルでリリースしたりしていました。30歳過ぎてからJ-POPを作るようになりました。

大学生の頃、作家さんのアシスタントについていたり、いろんな先生に就いたりして勉強もしていたんです。 当時はJ-POPを作る気はなかったんですけど、音楽制作の現場にいられるしとてもいい経験でした。 一度、社会人を経験してみて音楽に戻りたくなって昔の友人や先輩たちを頼って仕事をいただくようになって今に至る感じですね。

ミックスを始められたきっかけはなにかありましたか?

ArmySlick:作家としてコンペに提出する際、以前ならラフなミックスでも通ることはあったのですが、ここ数年はアレンジだけでなくミックスもきちっと詰めていかないと通らないことが多くなってきたので、勝ち残るためにミックスまでやるようになりました。もともと興味もあったというのもありますけど、最近は物凄い数の曲が集まりますし、海外からも応募があるのでまずは競争に勝たないと食っていけないですからね。

興味があったこともありますが、詰めて作っていく機会が増えるにつれてプラグインが増えて行った感じです。とにかくクオリティを上げたいという一心ですね。

ミックスにはどれくらい時間をかけますか?

ArmySlick:デモ用だと一日弱くらいですかね…たまに完パケの状態までもっていく依頼を受けることがあるのですが、その場合は2~3日くらいかけることもあります。

普段はどのような音楽を手掛けられることが多いですか?

ArmySlick:J-POPが多いのですが、最近はアニメや声優さんの音楽も依頼いただけるようになりました。アニメ系の音楽は5、6年前から増え始めましたね。

最近リリースされた作品で差し支えないものを教えてください

ArmySlick:アニメ系ですと、ラブライブシリーズ、アイドルマスターシリーズとかですかね。J-POPだと佐藤ミキさんとか私立恵比寿中学さんもやっていますね。

あとはすとぷりのさとみさんの曲もやらせていただきました。それと…一昨年、アンパンマンのマーチの2022年バージョンのアレンジをやらせてもらいました。けっこう幅広くやらせて頂いてもらっています。

ミックスをする際に心がけていることは?

ArmySlick:作家が行うミックスとしてというのであれば、一聴して派手に聴こえてパンチがあるようにしています。

先ほども話しましたが、コンペに参加する場合、たくさん集まるが曲の中を突破しなければならないのでそのたくさんの応募曲を並べて聴かれたときに際立つためには曲がいいことはもちろんなのですが、他の曲にパンチ負けしないことは重要です。

集まるときには1000曲を超えることがあるので、ディレクターさんに聞いてもらうときに少しでも耳に残るためにはあらゆる努力をします。メインは歌なので、歌を大きく聴かせたいというのもありますが、そうすると相対的にオケが小さくなって地味になってしまうのでそこを補う必要があります。そこにはFabFilterのPro-L 2を使うことで解消することができますね。

Pro-L 2ですか?もう少し具体的に聴かせてください。

ArmySlick:デモを作る際にめちゃくちゃ音圧を突っ込んでいく必要があって…そうなると波形が海苔のようになって歪んだり、破綻したりすることがあるのですが、Pro-L 2を使うと一番破綻させずに音圧を上げることができるんです。

最終段にトランスペアレントモードで使うことが多いですね。ゲインを上げるために使用するのでそれ以外はモードを切り替えることがあるくらいです。使うモードもトランスペアレントかモダンのどちらかであることがほとんどす。あとトゥルーピークは外しています。

Saturnにはどうやって辿り着きましたか?

ArmySlick:Saturnはバージョン1の頃から使用しているので、5年くらいになると思います。

なぜ、サチュレーターを必要としましたか?

ArmySlick:うぅ~~ん、何だったかなぁ…なんとなく使い始めた記憶なんですが、音作りをする上で歪みってとても重要だなとは思っていたんです。使い始めたら良かったので、今では使わないプロジェクトはないくらいの頻度になっています。

たぶん…ドラム関連だったと思います。スネアとかハットとか少し音を粗くしたいときに使い始めた記憶があります。SaturnのモードをTapeとかTubeにして使いました。今では全チャンネルにまでとはいかないですけど、どんな音にもかけるようになりました。キックをはじめとするドラム関連からベースにもかけています。

ロックっぽいアレンジの場合、ボーカルにも使ったりもするのですが、その時はバストラックでSaturnをかけて、ヘビーなアンプでめちゃくちゃ歪ませてそれを元のボーカルとブレンドするようにしています。それ以外はインサートでかけることが多いですね。

Saturnにたどり着くまでに試した同様のプラグインはありますか?

ArmySlick:他にどんなサチュレーションプラグインがありましたっけ?

いくつかはあったかと思うんですけど…その昔、Cubaseを使っていたころにデフォルトで入っていたMagnetoを使った記憶はありますが、そんなに積極的に使用した記憶はないですね。

どんな効果を求めていますか?

ArmySlick:キックとかベースなどの低音域の楽器に輪郭を付けるために使うことが多いです。例えば808の音色を使ったベースの場合、聴くスピーカーによって印象が変わってしまうことがあるのでその時に輪郭を持たせるために「チリッ」とした音を加えて印象が変わらないようにするために使っています。

そんなに歪ませる感じではなく、DriveとMixを細かく調整して音色を調整していく感じですね。 ボーカルには飛び道具的な使い方でインサートでは使わずにバスに送って歪んだ音を増せる感じで使いますね。 その音を必要なパートにかけていくようにしています。

その他にもスネアとか上物とかなんでも使いますね。ブラスにも使いますよ。質感付けとして使っています。

もともとヒップホップも好きなので、昔のヒップホップでサンプリングをあちこちから引っ張ってきてクリーンなものもあればざらっとしたものもあってハイブリッドな感じがあったと思うのですが、そういう演出をしたいときにブラスだけにそういう質感を加えて異物感を出すようにしています。そういう時はCleanかWarmのTubeかTapeを使うことが多いです。

今っぽい洋楽ってサチュレーションエフェクトが結構な頻度で使われていますよね。そういう音を作りたいときはマストだといえますね。混ぜ具合が肝だと思います。

注目している音作りをするエンジニア/プロデューサーはいますか?

ArmySlick:Alabama ShakesとかをやっているShawn Everettの音作りはすごいですよね。

AdeleとかのエンジニアをやっているTom Elmhirstとかもカッコいいですね。Adeleの推し曲はTomがやっていることが多い気がします。高級感があって、音像が広い感じで品のいい音がしていますよ。あれは他の人ではできないミックスですよね。

モノによってはSerban Gheneaも好きですね。

そうやってお気に入りのサウンドを見つけてストリーミングサービスに自分の好きなミックスのプレイリストを作って聴いたりもしています。

ご自分で編み出したトリックはありますか?

ArmySlick:自分で編み出したわけではないですけど、チャンスがあったらトライしたいものがあるんですよ。

3日前くらいに思いついたのですが、上物をバスに送ってリバーブをかけ、そのリバーブにSaturn 2をかけてめちゃくちゃ歪ませてみたいんですよ。その質感が合うようなサウンドを作れたらぜひ試したいと思っています。

サチュレーターに馴染みが薄い人に熱いメッセージをもらえませんか?

ArmySlick:SNSとかによく流れてくる「これを買っておけリスト」みたいなのだとEQやコンプが多いですよね。Pro-Q 3は持っているべきだとは思いますけど。

ボクはチャンネルにEQとかコンプとかってあんまり挿さないんですよね。低域が暴れてしまったときにPro-Q 3でカットしたり、不必要な音を抑えたりはしますけど、ほとんど使わないです。プラグインで音をこねくり回してもなかなかいい音にならないですよね。最終的に全部バイパスしたらいい音だったみたいなことになることもありますし。

必要最小限にしています。音をこねくり回さなければいけないということは、そもそも音色選びが間違っているんだと思うんですよ。そういう時は、音をいじるよりも音色を変えた方がいいと思いますね。

あと、ギターやピアノではポジションを変えるだけで解決できることもあると思うので、作家としてはそちらを先に考えてほしいですね。

お勧めの設定や使い方はありますか?

ArmySlick:先ほども話しましたけど、ほぼTapeかTubeのCleanかWarmを使っていますね。あんまり飛び道具的にすごく歪ませて使ったりはしていないので60%前後に歪ませてMIXを20%前後にする感じですかね。ラジオボイスのような飛び道具として使うときはAmpタイプを使ったりもします。

サチュレーターを使ったことのない人にお勧めするためのメッセージはありますか?

ArmySlick:そうですね、今っぽい音楽には欠かせないツールだと思います。ざらついた質感が必要になるケースってけっこうあるので、それはサチュレーターを使った方がいいと思います。サチュレーターでなければ得られない質感があるのでどんな音にでも使えるので積極的に使ってみてほしいです。

最初はキック、スネア、ハットに使ってみるといいと思いますよ。音がワイルドになりますからね。 つるんとしたきれいな音って素人っぽさが出てしまいがちですよね。サチュレーターを使うことでプロっぽいというか、ワンランク上のサウンドが作れると思いますよ。


福地:自分の作品をより印象よく、埋もれないように、そして時代の先を進んでいけるよう研究に余念がない印象を受けました。サチュレーターを彼のような視点で使いこなしている人がこれから増えるといいですね。

インタビュー外の雑談も収録しておきたかったくらい濃い内容とTipsに富んだお話を聞くことができました。いつか動画でも登場してもらいたいと思っています。


ArmySlick

作曲/編曲/音楽プロデュース/Remix/Bass
東京都出身
作編曲家として、数多くのプラチナ/ゴールドディスク、オリコン1位を獲得。
AAAに提供した「愛してるのに、愛せない」が、第57回レコード大賞優秀作品賞を受賞。

E-Girls、AAA、私立恵比寿中学、宇野 実彩子、大原櫻子、藍井エイル、逢田梨香子、NEWS、TrySail、石原夏織、=LOVE、ラブライブシリーズ、アイドルマスター シャイニーカラーズ、V6、乃木坂46、SMAP、BoA等の作曲/編曲を手掛けている。

14歳からBassを弾き始め、以降Pops、Jazz、Latin、Rockまで様々な音楽スタイルのバンドでBassPlayerとして活動、並行して音楽製作も開始。Bassを濱瀬元彦氏、Contrabassを田中洪至氏、Piano、和声法を高橋信博氏、対位法を内海聡子氏に師事。

一方、nukes名義で海外のHouseシーンでも活躍。

2006年より日本国内での活動を開始。時代を捉えたサウンドをPopsとして楽曲に落とし込む手腕に定評がある。