桜は散ってもプロジェクションマッピングは散らず
みなさん、今年のお花見はいかがでしたか? 都内近郊にお住いの方は、東京桜スポットの一つ、目黒川へ桜見物に行かれた方も多いかもしれませんね。
満開の頃はもう歩けないほどの人でいっぱいになる目黒川ですが、そのほとりにあるカフェレストラン「シェリールカブレ」では、4月末まで桜をテーマにしたアート展示【HANAMI exhibition】が開催されています。

* HANAMI EXHIBITION *
コンセプトは 《アーティストのお花見》
シェリール カブレに集う5人のつくり手とオーナー店長が生み出す想像の”花見”を、お食事やお酒と共にお楽しみください。
Tadayuki NAITOH / photography
Takashi NAKAJIMA / installetion
MING / music
Daisuke TSURUTA / motion graphic
SEISEN ITOU / painter
did the first collaboration with TADAYUKI NAITOH
Joe WATANABE / restaurant
平日 / 11:30 – 14:30 (L.O.14:00)
/ 17:30 – 24:00 (L.O.22:00)
土曜 / 17:00 – 24:00 (L.O.22:00)
日曜 / 定休日
期間中は、GrandVJを大活用したアート作品を、ゆっくり食事をしながら鑑賞できるようになっています。
お店で楽しめる作品は、入り口の立体物と、店内奥の壁面の2か所。この展示を仕掛けた5人のアーティストさんのうち、マッピング映像を手掛けた鶴田大輔氏に、その裏側をじっくりお聞きすることができました。
映像/マッピング制作の鶴田大輔さん、立体制作/天井装飾の中島崇さん、そして今回の御本尊とも言えるT字十二面桜制作の内藤忠行さん、みなさんのプロフィールは一番最後で詳しくご紹介します。
余談ですが、満開の桜をイメージした天井の紙テープ装飾は、なんと総延長2km! まさかの20万cm!

マッピング作品を常設展示するためのシンプルな再生方法とは?
まず入り口をはいると目に飛び込んでくるのが、壁に掛けられた5角形の立体物。あまりにも自然にマッピングが施されているので、一瞬プロジェクターで動画が投影されていることに気が付かないほどです。
これ、台上に設置されたプロジェクターを隠すために、手作業で切り抜いた紙枠が取り付けてありまして、いわば超アナログなマスクとして機能しています。レンズ近くにマスクがあるので、輪郭が自然にフェードして、ソフトエッジ的な役割をしてくれるんだとか。

Cinema 4DやAfter Effectsで作られた動画素材は、最長で10分ループ。これをGrandVJエフェクト効果ありとなしの2パターン収録して、合計20分の作品となっています。
ん? 収録? リアルタイムで映像をミックスしているわけではない?
店舗内で長期間にわたって上映する作品では、毎日アーティストさんが立ち上げ〜ミックスをしにいくわではありません。この展示の場合、GrandVJでリアルタイムにミックスをした画面出力を、Blackmagic DesignのVideo Assistを経由して録画し、動画フォーマットを変換して、最終的にiPadをプレーヤーとして使用しています。

GrandVJを使ったプロジェクションマッピングが、毎日お店のスタッフさんがiPadを少し操作するだけで、営業時間中ずっとループ再生してくれるようになっているんですね。
この、マッピングを録画 -> 動画ファイルとして保存 -> 簡単な機材で再生、という流れは、多くのユーザーさんからお問い合わせを受ける内容ではありますが、みなさんにお伝えできる万能な方法はなかなかないんです。この展示作品についても、作品自体を違和感なくループ再生できるように作ることや、PCとVideo Assistとプロジェクターの最適な設定、動画フォーマット変換時の注意点、iPad側でのプレーヤーの選択などなど、鶴田さんのこれまで培ったノウハウが凝縮されていますよ。

小さな立体に複雑に重ねられたイメージと、GrandVJの内蔵エフェクトを使用した大胆な変化
マッピング動画を仕込むにあたっては、投影される動画素材はかなりの種類が用意されているものの、あくまでも素材のままで、完全な一つの動画にはなっていません。

例えば、じっくり作品を眺めていると、メインの和テイストな映像が展開していく中でも、「桜」のテーマを表現するCGの桜吹雪が、常に上位レイヤーで再生されていることに気づきます。さらに、自然なゆらぎやランダム感を表現する重要な素材が、「本物の焚火から舞い上がる火の粉」から作成したクリップ。これらが最前面で世界観を作っているので、後ろのレイヤーが暴れても、唐突な印象にならずに済んでいるわけです。
この素材、中野のプロ映像機材店フジヤエービックさんからSONYの最新カメラを機材協力してもらって、暗いなかで飛び散る火の粉をハイスピード撮影したあと、グレーディング/エフェクト処理を施してから逆さまにする、という「ちょいとひと手間」どころではないスゴ映像。そこまでしてやっと桜が舞い散るクリップが完成したそうです。
その素材たちをまとめたり暴れさせたりするために、GrandVJの各種内蔵エフェクトと、8つのレイヤーに装備されたA/Bグループミックス機能が大活躍しています。

シンプルかつ機能的にまとめられた、完全モバイル仕様の機材セッティング
緻密なアートでありながら、ノリと勢いで映像を操るVJ的なライブ感にもあふれている鶴田さんの作品ですが、なんと今回は、実際の機材セッティングも余すところなく公開していただけました!



この小さな机の上に必要な機材は全て揃っていて、しかもバックパック一つに収まるコンパクトさ。クラブVJやマッピング作品の展示も、今回の様な比較的小規模な現場なら、無駄を削ぎ落としたミニマルなセットアップでも問題ないそうです。
GrandVJユーザーの方には、相当価値ある参考資料ではないでしょうか? 素早い操作のためのコントローラー、熱暴走防止用ファン、スタンド、電源周りなど、ぜひ取り入れてみてください。
ここで唐突に貴重なデータを無償提供!

一連の機材の中でもサブコントローラーとして活躍している、iOSデバイス上で自由にコントローラーが組み上げられるTouch OSCは、GrandVJ関連機材としてはド定番。なんと!この画像でも活用されている鶴田さんのオリジナルレイアウト、設定ファイル公開ダウンロードの許可をいただきましたので、ぜひ一度みなさんトライしてみてください。
見なきゃ絶対伝わらない、写真とCGの融合から生まれる圧倒的な存在感
店内奥で展示されているのは、現代日本を代表する写真家の一人 内藤忠行さんの作品。独自の「T字型十二面シンメトリー」に配置されたモノトーンの桜の写真は、見ていて吸い込まれる程の奥行きと広がりをもつ、静かだけれども力強い作品です。
※「T字型十二面シンメトリー」のオリジナルは、恵比寿-東京都写真美術館に所蔵されています


まさに御本尊にふさわしい、アーティストのオーラがこもったT字十二面桜、その桜にプロジェクションマッピングを施すと、いったい何が起こるのか?
実際に作品を再生してもらったのですが、そこから約20分、ただ口を開けて、ずーーーーっと見入ってしまいました。投影されている先は、どちらかというと暗めで色彩の少ない写真に間違いないのに、うっすらと動画がのっかってくると、枝の1本1本にさらに奥行きがでて、桜の森全体が動き出し、大きな窓から外の風景をずっと眺めているような、不思議な感覚。
ほんとこれ、ちょっとした旅に行ってきたくらいの気分ですよ。携帯で写メったり、動画をYoutubeにアップしたりしても、絶対伝わらない自信があります。
どのように解説するべきか本当に悩みましたが、もうこれは本物を見て体験してもらうしかないです。
見に行くべし!
みなさん、2016年ゴールデンウィークの出だしは、中目黒でアーティスト達のコラボ作品を堪能してみてはいかがでしょうか?
アーティストプロフィール
▲鶴田 大輔(映像-マッピング)
https://www.pixdisc.com/creator/visualdreamscape.html
https://www.genkosha.com/vs/goods/debayashidvd/entry/cgdebayashi_dvd03.html
在学中に作曲家としてメジャーデビューしキャリアをスタート。90年代後半、VJユニットecranを率い精力的に活動、国内外のクラブ・イベント・ショーで活躍。
海外公演時に現地メディアに称された『 visualdreamscape 』を活動名義として2003年よりソロ活動『 visual-dreamscape-project 』を開始。音楽の展開と同調し、光彩と陰影を効果的に見せる映像表現はまさにdreamscape(夢のような情景)と呼ぶにふさわしい。
CG・モーショングラフィックス・撮影・録音・編集・作曲・編曲などのコンテンツ制作、ディレクション・演出・パフォーマンスなど、クリエーターとして個で対応出来る幅が広く活動も多岐に渡る。
TV・CM・VP・PVを多数手掛け、映像素材集も数多くリリース。主な活動として、ハリウッド映画『マイアミバイス』のオープニング映像、フランス パリ・人類博物館でフラワーアーティスト 東信 氏 ・ DJ Q’Hey 氏 ・ 和太鼓演奏家 大多和正樹 氏 らとのライブパフォーマンス、安室奈美恵・GLAY・BIGBANGなどのコンサート映像、イッセイミヤケ・クリスチャンディオールなどのファッションショー映像、hp・sony・Volkswagen・BRIDGESTONEなど世界的企業のプロモーションも多数手掛ける。
▲中島崇(入口脇-五角形および天井装飾など)
https://nakajimatakashi.net
私の芸術表現とは、個人と公共が交わる場所をつくることです。つまり、個人的思考を公共に向けて提案する行為だと思っています。
セッティングされた空間の中で人と人とが出会い、語らい、新たな思考を発見し、鑑賞者も作品の一部となり、作品もまた鑑賞者の一部となる。
そんなインスタレーション作品の発表を続けています。
▲内藤忠行(店舗奥-T字12面桜)
https://www.p-om.net
https://www.iepa.jp/member/Naito_Tadayuki/
https://www.feric.ne.jp/culture/art_catalog/080212.html
https://tower.jp/article/series/2011/10/26/Miles_Davis
https://www.milestone-art.com/htm/2015naitoh1.html
https://www.milestone-art.com/htm/2015naitoh2.html
1941年、東京浅草生まれ。ジャズと出会いそのフィーリングとバイブレーションを映像化すべく写真家を志す。マイルス・デイヴィスなどオリジナルなスタイルを創造した天才ミュージシャンから学んだ表現方法を写真に応用し、精力的にコンサートライブを撮り続け、多数のレコードジャケットを手がける。本場のジャズシーンに接するうち、そのルーツであるアフリカへと導かれ、この大いなる大地への愛と理解と感動を【アフリカの歌】などの作品集にて発表。アフリカへの旅を重ね、シマウマのモチーフを繊細かつ大胆に表現した【ZEBRA】においては、ストレートなカラー写真から、コラージュやソラリゼーション、多重画面などを駆使したシンメトリーな抽象表現までを自在に用い、「スピリチュアル」「モダン」「プリミティブ」の融合という、彼の写真に一貫して流れる特徴を確
立させる。赤道直下の国々やアラスカ、ヒマラヤ周辺など異なる文化圏へ世界規模に取材し、観察と空想とジャズ的写真の冒険を繰り返すことにより生まれた膨大な作品群は、写真集、雑誌での発表にとどめることなく、映像、造形、テキスタイルなど多様に展開させていった。
その後、そうした体験と眼差しに対比させるかのように自らのアイデンティティを追及。日本の美の象徴とも言うべき〈桜〉、〈庭〉というテーマに斬新に取
り組む。アニミズムや曼荼羅と、日本人としての自然観と装飾性を結びつけた幻想的な桜の世界は、着物を連想させる「T字型12面シンメトリー」の無限の奥行きの中に、上品で雅でありながらも妖艶な魔性を潜ませた【SAKURA-COSM】に結実する。四季折々の自然と感応し美を表出させる〈庭〉では、日本人の美的DNAの潜在を表現し、ADC賞を受賞したCD-ROM【京の庭】をはじめ高い評価を得る。
静寂な庭に宇宙のリズム感じ、それをフィルムに写し撮っていく過程で本能的に出会った、〈蓮〉という被写体を21世紀のスピリチュアルなキーワードとし、
実存しない青い蓮の世界に「愛と平和」への祈りを込め発表した「Blue-Lotus」シリーズは、その美しく幻想的な蒼い光に見る者を包み込むことにより、時空を
越えた生命の普遍的なメッセージを発信することに成功している。
新たな表現への欲求は留まることなく、「視覚と聴覚の相乗」をコンセプトにしたフォト・ユニット「PM-X」を主宰、様々なアーティストとのコラボレーショ
ンを意欲的に行っている。
2005年、スワミナサン財団(「緑の革命の父」と謳われるスワミナサン博士が、貧困・飢餓を根本的に解決するため設立した財団)によるプロジェクトの一環、「モダン・マスターズ・オブ・フォトグラフィー/ジャパン」の12人の写真家の一人に選出され、その草の根的支援活動に賛同し「Blue Lotus」を寄贈。
Modern Masters of Photography_Japan
https://www.masterphotographers.org/
M. S. Swaminathan Research Foundation (MSSRF)
https://www.mssrf.org/