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Spire Topics & Tips – vol.11

マトリックス機能による変調を音色作りに活かす(その1)

Spireはオシレータ、フィルターなどの音色作りのための入出力信号の流れが予め決められているので、GUI上の主なパラメータをエディットすることで十分な音色作りが行なえます。しかしながら、マトリックス機能を活用することで複雑な変調が得られ、音色作りの可能性を広げられます。

今回は積極的にマトリックス機能を使用してのサウンドメイクを紹介しましょう。

今回作成したベル系音色は、MIDIの発音域の全域で使用できる音色になっており、音域によって異なるサウンドのテイストになっているのがポイントです。

元々は中音域を中心に音色を調整していたのですが、最終的にできたものを演奏してみると、発音可能な最高音域もウインドチャイムのような響きになっています。

元々の作ろうとする音色のイメージにおいては意図していなかったのですが、結果オーライな仕上がりとなりました。

図1:今回作成した音色の設定

マトリックス機能とは?

本コーナーやチョイ足しの時にも紹介しましたが、今一度マトリックス機能について復習しておきましょう。

マトリックス機能とは、任意のパラメータ出力を用いて別のパラメータを変調する機能のことで、ほぼすべてのパラメータをSpire上で自由に接続して変調することができます。マニュアルにもある通り事実上無制限の信号ルーティングが可能なワケです。

マトリックスは15スロットで構成され、各スロットには2つのソースと4つのターゲットを設定でき、オシレータ、LFO、エンベロープ、ステッパーなどSpire上のパラメータに加えて、MIDI信号、MIDIコントローラなども割り当てることが可能です。

図2:マトリックス機能セクション。中央下部のボタンをクリックすると表示・非表示が切り替えられる。

このソースとターゲットとは、変調信号を出すパラメータがソース、変調されるパラメータがターゲットとなります。

例えばSpireのEGやLFOはそれぞれ4基あり、各LFOで2つのパラメータを変調できますが、言い方を変えるとLFOのソース1つで2つのターゲットを変調できると言えます。

しかしながら、1つのソースで3つ以上のパラメータを変調することはできませんので、そのような場合にマトリックス機能を使うことで解決できます。

それ以外にもMIDIキーボードのモジュレーションホイールやピッチベンドホイールを使用してリアルタイムで変調をコントロールするなどマトリックス機能の用途は多岐に渡ります。

ソースとターゲットに割り当てられるパラメータについて

それではSpireでソースとターゲットに割当可能なパラメータを見てみましょう。

まず、ソースには図のようなパラメータを割当可能です。

図3:マトリックス機能で割当可能なソースはこのようなパラメータが割り当てられる。

リストの左側にはSpire内部の変調使用可能なパラメータ、右側にはMIDIによるコントロール系のパラメータが確認できますが、音色の根幹的なサウンドを決めるのはSpire内部のパラメータであるオシレータ、EG、LFOとなります。

EGやLFOが変調に使用できるのはわかりやすいですが、オシレータがなぜ変調に使用できるのかについて補足しておきましょう。

ちなみに、Moogの名機minimoogは3オシレータ仕様ですが、オシレータ3は一番低いレンジ設定にするとLFOとして使用できるようになっています。

このことからもわかるように、多くのシンセではその出力する周波数のレンジが異なるだけで、通常のオシレータもLFOと同じように使おうと思えば使えるのです。

続いてターゲットを見てみると、以下の図のようなパラメータを割当可能です。

図4:マトリックス機能で割当可能なターゲットはSpireのほとんどのパラメータを割当可能だ。

図からもわかりますが、変調を受ける側はほとんどのSpireのパラメータが割り当てられるようになっていますので、設定次第では予想しないサウンドを得られることもあります。

少々マトリックス機能についての解説が長くなりましたが、次回から実際の音作りについて解説したいと思います。

↑ 今回作成してるサウンドのプリセット・データ(音色データ)です。ダウンロードされる「Osc-Mod-Bell-1.spf2_.zip」ファイルを解凍後、現れた「Osc Mod Bell 1.spf2」ファイルを、SpireのPreset Managerの「Import」から読み込みます。

内藤朗

キーボーディスト、シンセサイザープログラマー、サウンドクリエーターなど様々な側面を持ち、S.E.N.Sのレコーディングサポート、安部OHJIの様々なプロジェクトでのレコーディング、ライブなどに関わるなど、作編曲からレコーディング制作、ライブ演奏など多方面で活動中。MIDIやDTM関連の分野では黎明期から今日に至るまで長きに渡り関わっており、多様な経歴を持つ。また、音楽制作系のライターとしても広く知られ、近著に「音楽・動画・ゲームに活用! ソフトシンセ 音作り大全」(技術評論社刊)、共著「ミュージッククリエイターハンドブック 2023年改訂版」(ヤマハミュージックエンターテインメントホールディングス刊)などがある。有限会社FOMIS代表取締役、一般社団法人日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ(JSPA)正会員、MIDI検定指導研究会会員。