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Sledgeでハードシンセをマスターしよう – vol.5

第5回:複数オシレーターを使用する際の役立ちテク

Sledgeはサウンドの元となる波形を出力するオシレーターが3基あります。今回は3基のオシレーターを使用する上で知っておくと応用の利くテクニックについて紹介しましょう。

複数オシレーター装備のメリットとは?

製品によっては、1オシレーターでも多彩なサウンドバリエーションが得られるモデルもありますが、複数のオシレーターを装備している場合には、1オシレーターでは得られない以下のような様々なメリットがあります。

  • デチューンによるアンサンブル効果
  • 異なるオクターブのレンジ設定で音圧感を増す
  • 違う波形を組み合わせて音色バリエーションを得る
  • オシレーター同士を掛け合わせてより複雑なサウンドを得る

などです。

それぞれについて解説していきましょう。

デチューンによるアンサンブル効果

オシレーター1基での音色作りをバイオリン演奏で例えてみましょう。 バイオリンの場合は2人で同じ演奏をした場合、1人で演奏した場合よりも広がりや厚みが増したようなサウンドになります。

これはそれぞれの楽器のチューニングがわずかに異なることによって生じる効果によるもので、コーラスエフェクトや複数のオシレーターによるデチューン効果もこれを活用したものです。

Sledgeにはオシレーター2と3に “DETUNE” というパラメーターがありますが、各オシレーターで波形とオクターブを同じ設定にした状態でDETUNEの値を変化させると音揺れが大きくなるにつれて厚みや広がり感が変化します。

設定の目安としては、デチューン値が大きくなるにつれて不協和な響きになりますので、シンセパッドやストリングアンサンブルなどの音色を作る際にはデチューン値は小さめにして音程感が損なわれない程度、エスニック系楽器や効果音的な音色を作る場合にはデチューン値をあえて大きく設定することでそれらしくなる場合があります。

また、サウンドメイクの際に厚みや広がりを出すためにコーラスエフェクトをすぐに選びがちですが、音色によってはオシレーターデチューンでも似たような効果が得られたり、コーラスエフェクトだけでは得られないサウンドバリエーションが得られます。サウンドメイクの基本としてエフェクトを使用する前にシンセ本体のパラメーター調整をしてみるように留意しておくと良いでしょう。

オシレーター2をデチューン値=+8に設定した状態のサウンド

オシレーター2をデチューン値=+24に設定した状態のサウンド

異なるオクターブのレンジ設定で音圧感を増す

各オシレーターのオクターブレンジを異なる設定にすることは、元の音色に低域や高域の倍音を付加することと同様の効果があります。

例えていうと、音域の違う同属楽器(トランペットとチューバなど)を組合せるような音色の質感が得られます。

具体的な活用例としては、シンセベースの音色にオクターブ下のオシレーターを追加することで、サブベースのような音圧感を付加したり、シンセリードの音色にオクターブ上のオシレーターを追加して派手な目立つサウンドにするなどが挙げられます。

設定の際は、追加したオシレーターのサウンドが目立ち過ぎるような場合には、元の音色で使用しているオシレーターのボリュームとオクターブ上や下に設定して追加したオシレーターのボリュームバランスをミキサーセクションで調整して、意図するバランスに合わせ込んでいくのがポイントとなります。

オシレーター1のレンジを2’、オシレーター2のレンジを8’にした状態のサウンド

違う波形を組み合わせて音色バリエーションを得る

各オシレーターの波形を異なるものにすると、1オシレーターでは得られない波形バリエーションやサウンドが得られます。異なる波形の組合せは、例えるならバイオリンなどの弦楽器とクラリネットなどの木管楽器を同時に演奏しているような音色を得ることに似ています。

元々アナログシンセサイザーのオシレーターで出力するノコギリ波や矩形波などは、それぞれが実際の楽器の持つ倍音成分に近い構成になっていますので、各種フィルターなどを使用して実際の楽器に似た音色を作成することができますし、Sledgeにはデジタル波形も揃っていますので、更に複雑な音色の作成も行なえます。

オシレーター1をノコギリ波、オシレーター2をパルス波でPULSE WIDTHの設定を70%にした状態のサウンド

オシレーター同士を掛け合わせてより複雑なサウンドを得る

最後にSledgeのオシレーターセクションに装備されているFM変調とオシレーターシンク機能について紹介しましょう。

SledgeのFM変調はオシレーター2はオシレーター1を、オシレーター3はオシレーター2をそれぞれ変調します。FM音源のシンセで良くみられるアルゴリズムに当てはめてみると図のような感じになります。

それぞれのオシレーターの設定にもよりますが、単にオシレーター波形をミックスするよりも更に複雑な響きを持つ波形に変化します。

オシレーターシンクも同様にオシレーター同士を掛け合わせることによる変調機能です。オシレーターシンクはオシレーター3によってオシレーター2を強制的に同期させるもので、特に両方のオシレーターが異なるピッチ設定になっている場合やLFO/ピッチベンドなどによるピッチ変調を使用する設定になっている場合は、非常にユニークなサウンドを得ることができます。

オシレーター2のサイン波でオシレーター1をFM変調したサウンド

オシレーターの設定・活用テクの応用

今回紹介したテクは、もちろんそれぞれのテクごとで効果が得られますが、これらのテクを複合的に活用することも多々あります。

例えば、異なる波形で違うオクターブレンジを組み合わせたり、デチューンさせたりなど、応用範囲は多岐に渡ると思います。ポイントとしては、「自分がどのような音色やサウンドが得たいのか」をイメージし、それに近づけるために、予想立ててパラメーターを調整することです。

音色作りをマスターするには、パラメーター調整のトライ&エラーをどれだけ行なうかが一つのポイントとなりますので、1回でも多くパラメーターを動かしてみることをオススメします。

内藤朗

キーボーディスト、シンセサイザープログラマー、サウンドクリエーターなど様々な側面を持ち、S.E.N.Sのレコーディングサポート、安部OHJIの様々なプロジェクトでのレコーディング、ライブなどに関わるなど、作編曲からレコーディング制作、ライブ演奏など多方面で活動中。MIDIやDTM関連の分野では黎明期から今日に至るまで長きに渡り関わっており、多様な経歴を持つ。また、音楽制作系のライターとしても広く知られ、近著に「音楽・動画・ゲームに活用! ソフトシンセ 音作り大全」(技術評論社刊)、共著「ミュージッククリエイターハンドブック 2023年改訂版」(ヤマハミュージックエンターテインメントホールディングス刊)などがある。有限会社FOMIS代表取締役、一般社団法人日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ(JSPA)正会員、MIDI検定指導研究会会員。