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【ソフトシンセ入門】サウンドメイクの基本をSPIREでマスター(vol.4)

第4回:フィルターセクションをチェック

今回のチェックポイントはフィルターセクションです。前回のオシレーターセクション同様にサウンドメイクにおいて重要な部分ですが、詳しくみていきましょう。

フィルターセクションの役割

Spireにおけるフィルターセクションの理解をより深めるため、最初に一般的なアナログシンセサイザーにおけるフィルターセクションについて簡単に確認しておきましょう。

多くのアナログシンセサイザーでは倍音減算方式が採用され、フィルターのタイプは多くのモデルにおいてローパスフィルターを装備しています。ローパスフィルターとは、カットオフフリケンシーで設定した周波数値よりも高い周波数成分をカットするタイプのフィルターです。

このフィルタータイプには、ローパスフィルターの他、主なものにはカットオフフリケンシーで設定した周波数値よりも低い周波数成分をカットするハイパスフィルター、カットオフフリケンシーで設定した周波数値付近以外の周波数成分をカットするバンドパスフィルター、カットオフフリケンシーで設定した周波数値付近のみをカットするバンドリジェクトフィルター(あるいはノッチフィルター)などがあります。

図1:フィルタータイプのイメージ図。横軸は周波数値で左から右に行くにつれて高い周波数となる。縦軸はレベルを表し、上に行くほど大きなレベルとなる。図中の黒線はローパスフィルター、赤線がハイパスフィルター、黄色の線がバンドパスフィルター、青色の線がバンドリジェクトフィルターを表す。

また、フィルターセクションの重要なパラメーターとしてはカットオフフリケンシーの他にレゾナンスがあります。レゾナンスとはカットオフフリケンシーで設定した周波数付近を強調させるパラメーターで、これによってサウンドにクセをつけることができる他、レゾナンスを強くすることでアナログシンセサイザー独特のサウンドが得られます。

例えばオシレーターから出力された信号はフィルターセクションを通過することによって音色が変化します。例えばフィルターでローパスフィルターが設定されていた場合、カットオフフリケンシーの数値を徐々に小さくしていくと(=フィルターを閉じていくと)波形に含まれる倍音成分の高い部分がカットされて柔らかい音色に変化し、逆にカットオフフリケンシーの数値を大きくしていくと波形の持っている倍音成分が増えていくことによって明るい音色になっていきます。このようにフィルターセクションはシンセサイザーの音色に関わる部分を調整する役割を持っています。

Spireのフィルターセクションについて

それではSpireのフィルターセクションを見ていきましょう。

用意されているパラメーターに関しては特殊なものはありませんが、ポイントとなる点はフィルターを2基装備している点です。Spireの2基のフィルターは2基のフィルターを2段に重ねたように使用するシリアルモード、それぞれを別個に使用して2系統の音質調整を行なうパラレルモードのいずれかを選択できます。

ここで押さえておきたいパラメーターは2つあります。1つめはFilter Balance(フィルターバランス)です。このパラメーターは文字通りフィルターバランスをコントロールするノブです。

図2:黄色の枠線で囲んだ部分がFilter Balanceとなる。

ノブの位置がセンター位置では両⽅のサウンドが聴こえ、ゼロの位置(=左に回し切った位置)でフィルター1のサウンド、ノブを右に回し切った位置でフィルター2のサウンドのみが聴こえます。

もう一つはLINK(リンク)です。

図3:フィルターセクションの上部にある右側のボタンがLINKボタン。

LINKはフィルター1と2のカットオフをリンクさせる機能です。ユーザーマニュアルに記載されている通り、リンクをオンにしてフィルター2のカットオフを中間位置に設定するとフィルター1のカットオフに追従し、フィルター2のカットオフを中⼼以外の位置に設定するとカットオフ周波数がフィルター1のカットオフよりも⾼い値、あるいは低い値にオフセットされます。

フィルターモードの動作と設定のポイント

フィルターモードに関わってくるオシレーターセクションのパラメーターとして、“MIX”にある“Filter Input”についても押さえておきましょう。

図4:黄色の枠線で囲んだ部分がFilter Inputとなる。

Filter Inputは各オシレーターの出力をフィルター1と2へどのようなバランスで送り込むのかを調整するパラメーターです。左端に設定するとフィルター1のみに、右端に設定するとフィルター2のみにオーディオ信号が送られます。なおセンター位置ではフィルター1と2の両方に同量のオーディオ信号を送ります。

また、各フィルターモードでフィルター1と2それぞれの効果は次のような設定で聴くことができます。シリアルモードでフィルター1と2が使⽤されている場合、Filter Inputは左端の位置に設定し、フィルター1のみを通過させ、バランスを右端に設定するとフィルター2のみが聴けます。

図5:シリアルモードのセッティング例。黄色の枠線で囲んだ部分がポイントとなる。

パラレルモードでフィルター1と2が使⽤されている場合、Filter Inputを中⼼に設定してフィルター1と2に信号を送り、バランスを中央に設定すると両⽅のフィルターが聴けます。

図6:パラレルモードのセッティング例。黄色の枠線で囲んだ部分がポイントとなる。

これは実際に音色作りを行なう際に自分でもよく忘れてしまうことがあるのですが、パラレルモードにしたつもりで音色作りを進めているのに、なぜかパラメーターの変更通りの音色にならないことがあります。よくよく確認してみると“PAR”ボタンがオンになっていないことが原因だった・・・、ということが多々ありますのでフィルターを2基とも使用する際にはモードのチェックを忘れないようにしましょう。

図7:モード切替スイッチはフィルターを操作する際、最初に確認しておくのが良い。

内藤朗

キーボーディスト、シンセサイザープログラマー、サウンドクリエーターなど様々な側面を持ち、S.E.N.Sのレコーディングサポート、安部OHJIの様々なプロジェクトでのレコーディング、ライブなどに関わるなど、作編曲からレコーディング制作、ライブ演奏など多方面で活動中。MIDIやDTM関連の分野では黎明期から今日に至るまで長きに渡り関わっており、多様な経歴を持つ。また、音楽制作系のライターとしても広く知られ、近著に「音楽・動画・ゲームに活用! ソフトシンセ 音作り大全」(技術評論社刊)、共著「ミュージッククリエイターハンドブック 2023年改訂版」(ヤマハミュージックエンターテインメントホールディングス刊)などがある。有限会社FOMIS代表取締役、一般社団法人日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ(JSPA)正会員、MIDI検定指導研究会会員。