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Inside Newfangled Audio vol.3

「耳でEQする」をもう一歩先へ
EQuivocateとクリティカルバンド

「EQは目ではなく、耳で判断しよう」。ミックスではよく耳にするアドバイスですが、実は“耳で聴く”だけですべてが解決するわけではありません。人間の耳には、周波数をいくつかの帯域として捉える「クリティカルバンド」という特性があります。今回は、その聴覚の仕組みと、EQuivocateがなぜ一般的なEQとは少し違うのかを紹介します。


「EQは目ではなく、耳で判断しよう」

ミックスについて調べていると、一度はこんな言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。

現在のEQプラグインには、スペクトラムアナライザーやEQカーブなど、処理の内容を細かく確認できる優れた視覚表示が備わっています。

便利な反面、画面を見ていると、

「これはブーストしすぎかも」
「こんなに狭い帯域を触って大丈夫かな?」

と、見た目に引っ張られて判断してしまうことがあります。

たとえば、実際にはよく似た音の変化が得られる設定でも、Ableton LiveのEQ Eightで大きなカーブとして表示されるのと、ヴィンテージ機材を再現したEQのノブを回すのとでは、受ける印象がまったく違います。

大きく描かれたEQカーブを見ると、

「さすがにやりすぎでは……?」

と思うような設定でも、昔ながらのノブだけなら、それほど大胆な処理には見えないかもしれません。

もちろん、アナログ機器をモデリングしたEQには、それぞれ固有の回路特性や音の変化があるので、単純に比較できるものではありません。

それでも、“目で見た印象”がEQの判断に影響することは確かです。

耳で判断すれば、それでいい?

では、画面を気にせず耳だけで判断すれば、すべてうまくいくのでしょうか?

実は、そう単純でもありません。

たとえば、しっかりと中域を含んだシンセベースと、倍音豊かなエレクトリックピアノが同じ曲の中で鳴っているとします。

両方の音がぶつかり、中域が濁って聴こえたとしましょう。

こんなとき、スペクトラム表示のあるEQを使って、それぞれ別の周波数をブースト/カットして整理するのは有効な方法です。

ところが、スペクトラム上では違う周波数を調整しているはずなのに、それでもまだ音が濁って聴こえる場合があります。

なぜでしょう?

クリティカルバンド

ここで重要になるのが、**クリティカルバンド(臨界帯域)**という考え方です。

Princeのエンジニアとして知られ、聴覚研究者でもあるSusan Rogers(スーザン・ロジャース)は、人間の耳をいくつものフィルターが並んだ「フィルターバンク」のようなものとして説明しています。

人間の耳は、すべての周波数を完全に独立して認識しているわけではありません。

ある一定の範囲をひとつの帯域として捉えていて、近い周波数の音が同じ帯域に集中すると、それぞれの周波数自体は違っていても、まとまって濁ったように感じることがあります。

さらに、その帯域同士も完全に分離されているわけではなく、少しずつ重なり合っています。

つまり、スペクトラムアナライザーでは別々の場所に見えている音でも、私たちの耳にとっては“同じような場所”で鳴っている可能性があるのです。

「耳でEQする」から「耳のためにEQする」へ

では、先ほどのシンセベースとエレクトリックピアノを、どう整理すればいいのでしょう?

Newfangled Audioが提案する考え方は、

「耳でEQする」のではなく、「耳のためにEQする」

というものです。

つまり、人間が実際に周波数をどう感じているのかを考慮したうえでEQするということです。

ここで登場するのが、EQuivocateです。

人間の聴覚を基準にしたEQuivocate

一般的なグラフィックEQでは、1オクターブ、1/3オクターブといったように、周波数を数学的な間隔で分割することがよくあります。

一方、EQuivocateでは、デフォルトのバンド配置にメル尺度を採用しています。

メル尺度は、人間が感じる音の高さをもとにした尺度です。

つまりEQuivocateは、単純に周波数を均等に分割しているのではなく、耳と脳が音をどのように捉えるかを基準にバンドを配置しています。

そのため、ある周波数帯では必要以上に細かく、別の帯域では大ざっぱになってしまう、といったことを避けながらEQできます。

また、各バンドが聴覚特性を考慮した間隔で配置されているため、ブーストやカットが必要以上に狭く、鋭くなりにくいのも特徴です。

画面を見ながら調整するときも、耳だけで判断するときも、その両方を使うときも、人間の聴覚に沿った形でEQを進めることができます。

見るか、聴くか、ではなく

「目ではなく、耳でEQする」

もちろん、それは大切な考え方です。

でも、さらに一歩踏み込むなら、

人間の耳が、そもそもどのように音を聴いているのかを理解してEQする。

そこにEQuivocateの設計思想があります。

EQuivocateは単に「たくさんのバンドを備えたEQ」ではありません。

人間の聴覚を基準に周波数を整理することで、複雑なサウンドの中でも、それぞれの音をより自然に配置するためのEQなのです。

そして、このEQuivocateならではの考え方をさらに活用できる機能が、前回紹介したMatch EQです。

リファレンスとなる楽曲の周波数特性を解析し、自分では思いつかなかったEQカーブを作り出すMatch EQについては、「Inside Newfangled Audio vol.2」で詳しく紹介しています。


本記事は、Newfangled Audio公式ブログの記事を、メーカーの許諾を得て日本語翻訳・編集したものです。