2CELLOS:チェロはエレキよりもハード?!

チェロはエレキよりもハード?!

前回2CELLOSというクロアチア出身の2人組のチェロ・ユニットを紹介させていただきましたがご覧いただけましたでしょうか。彼らをまだ見ていない方は是非ご覧ください。彼らはどのような意図でこのチェロ・ユニットを組んだのでしょうか。今回はそのことについてさらに深く掘り下げると共に、最近注目しているチェリストをご紹介させていただければと思います!こうしたチェロの「生き生きとした現在」を体感していただけると嬉しいです。

■ 2CELLOSから広がる音楽

最近私は彼らからの刺激で、随分昔に聴いていたスラッシュメタルやハードロックの熱が再びわき起こってきて、こうした音楽を何度も聴き返したりしています。

メガデスやメタリカは今では衰退気味のような気がしますが、当時の私にとってはヒーローでした。ガンズアンドローゼズの『Welcome to the jungle』は、リリース当時は1つの事件でしたが、一度過ぎてしまえば忘れ去られてしまう傾向にあるこの世知辛い世の中。この魅力を再度チェロで再現した2CELLOSは素晴らしいと思います。

チェロで聴くと、原曲のエレキ・ギターよりもハードに聴こえて、聴く人を惹き込む魅力があります。彼らが最近リリースしたアルバムの中では、ニルヴァーナやNine Inch Nailsなどの曲もカバーしています。彼らの演奏にはブラームスのチェロソナタ、ピアソラのチェロ曲のような重たさがあり、しかも歯切れの良いザクザク感。2CELLOSの演奏を聴いて、チェロにはこういった側面もあるのだと改めて感じました。

さて、彼らはどのような意図でこのユニットを始めたのでしょうか。彼らのインタビューを見つけましたので、以下にご紹介したいと思います。

インタビュー中の彼らのコメントを以下に記載してみます。

Luka「チェロには他の全ての弦楽器の音域をカバーするぐらいの最も大きな音域を持っていて、ギターやパーカッションのようなサウンド、またバイオリン、ほとんどダブル・ベースのようなサウンドにもなるね。可能性は無限だよ。いつも僕たちはクレイジーなものをやりたいと思っていた。新しいものを求めていたんだ。若い人たちにチェロの魅力を伝えたいと思っていたんだ」

(中略)

Stjepan「小学校の頃にチェロを習いはじめたときからチェロに興味を持っていた。学校では僕はチェロを習っていることを馬鹿にされていたので、初めは本当にやめたいと思っていたんだ。でも小学校が終わるころには、チェロが大好きになった。それから僕はチェロを猛練習するようになった」

Luka「僕は5歳の頃からチェロを習い始めた。チェロはいつも僕の最優先事項だったね」

Stjepan「僕らがマスタークラスで初めて会ったときに、お互いに同じような”問題”を抱えているのだ
と察知したよ(笑)。僕らは本当にチェロや音楽に対して狂信的だった。一緒につるむようになって、酔っぱらって一緒に演奏をしたんだ。その時は音程も合ってなかったけど(笑)、運命的な出会いだと強く感じたよ」

Stjepan「ポップスやロックなどをいくつかやってみて、チェロで弾いてうまくいくかどうかはすぐに分かった。マイケル・ジャクソンの音楽は皆うまくいく曲だと思ったね。その中でもSmooth Criminalはチェロに最も適した選曲だと思うよ」

Luka「僕らは昔の素晴らしい音楽を演奏したかったんだ。例えば、U2とかガンズアンドローゼズとか、スティングとかをね」

Luka「『ウェルカムトゥザジャングル』は本当に難しい曲だったね。全てのバンドをたった2台のチェロで演奏しなければならなかったから。多くの実験を繰り返したよ」

Stjepan「これは交響曲全体を全て演奏するような体験だった(笑)。これは例えばチャイコフスキーの交響曲第6番を2台のチェロで演奏するようなものだったね」

彼らのコメントからも分かる通り、彼らはチェロの良さ、そして情熱的な部分をもっと若い人たちに知ってほしいということから、このユニットを始めたようです。

最近日本でも、彼らと同じような情熱を持つ若手の凄腕チェリストを見つけましたので、ご紹介させていただきます。以下のビデオをご覧ください。

どうですか? 超絶技巧のチェロでしょう?

彼は西方正輝さんというチェリストで、これからを期待される若手のチェリストです。ロックで言うと、ジェイソン・ベッカーのチェロ版という感じでしょうか?!

もう一曲弾いてもらいました。ご覧ください。

良く知られた『熊蜂の飛行』です。右腕がけいれんしてしまうような動きですね。一昔前、この曲はエレキ・ギターでよくカバーされる曲でしたね。

実は昔のロックでは、こうしたクラシック音楽の影響は多くありました。イングウェイ・マルムスティーンのバッハからの影響、トニー・マカパインのショパンの曲のカバー、ジェイソン・ベッカーのパガニーニの24のカプリース等々。数え上げたらきりがありません。ロックはクラシック音楽を受け入れやすい音楽ジャンルであるということが言えるでしょう。

そしてまた逆のことも言えます。クラシック音楽はロック的な要素を多分に含んでいるのです。それをいかに表現するかは演奏者の編曲と演奏技術の腕の見せ所と言えるでしょう。うまくいけば非常にかっこよく聴こえるし、うまくいかない場合もある。

元来、クラシック音楽にもこうしたへヴィでデモーニッシュな音楽はあるのですが、それはあまり一般には知られていないか、演奏会では避けられるというのが現状でしょう。ベートーベンの四重奏「大フーガ」、ブラームスの四重奏、グールドのバッハ演奏を聴けば、その昔一世を風靡したスラッシュメタルやへヴィメタルのような感覚のへヴィな音楽をクラシックでも聴くことができるのだと納得いただけるかもしれません。

チェロという楽器は他の弦楽器(バイオリンやビオラ)と比べて音域が広く、エレキ・ギターの曲をカバーしやすい楽器です。一昔前、バンドが全盛期だった時代、「ギター小僧」がちまたにあふれかえりましたが、これからは「チェロ小僧」なるものが出現してくるかも?!

西方正輝さんプロフィール:
チェロを鈴木典子、伊藤耕司、河野文昭の各師に師事。ロラン・ピドゥ氏の公開講座を受講。日本クラシック音楽コンクール第5位、東京国際芸術協会新人オーディション最優秀賞、第21回市川新人オーディション優秀賞、コンセールヴィヴァン新人オーディション優秀賞、2009年ハイドン国際室内楽コンクール特別賞、第9回ビバホールチェロコンクール第1位。2010年奏楽堂モーニングコンサートで、小田野宏之氏指揮藝大フィルハーモニアとプロコフィエフの交響的協奏曲を共演。またJTが育てるアンサンブルシリーズ、六花亭、芸大プロジェクト、芸大室内楽定期、プロジェクトQ、ラフォルジュルネなど、多数の演奏会に出演。東京芸術大学卒業、在学中に同声会賞受賞。現在同大学院修士課程在籍。
コンサート情報はこちら:https://ameblo.jp/nishikatamasateru/