「はぐれデジタル道」のWeb Yです。銀座に位置する弊社の近隣は輝かしいイルミネーションで彩られ、革ジャンで通勤する私はいつも以上に場違いな雰囲気が否めません。そんな今日この頃、弊社ではTRAKTOR LINE 破格キャンペーンを皮切りに、良質かつ多様に遊べる大人のオモチャを大変お求めやすい価格で提供しておりますよ。これをひとつの契機として、新年に新たな趣味の花を咲かせてみませんか?
さて、今回も前回に引き続き、「ターンテーブルの粋なはぐれかた」について考えてみようと思います。
昔は自分も7インチや12インチのレコードを買い漁り、夜な夜なグルグル、心の栄養補給をしておりました。しかし、今で言うターンテーブルはクラブミュージックやヒップホップミュージックのアーティストがプレーするための大切な機器と、思っていたワタクシ。こういうジャンルはハードコアパンク全開の自分には無縁と思っていましたが、面白いことが好きであれば、ジャンルは関係ないジャンと、ふと思いました。
前回はターンテーブルの回転を利用して、コントロールヴァイナルに映像を投影するインスタレーションという新たなアート作品に焦点をあて、緻密な計算と気持ちのよい音の重なりに新たな可能性を感じました。今回は「ターンテーブル奏者」など、複数の肩書きをお持ちの大友良英さんの興味深い展覧会が現在、茨城県水戸市にある水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催中。
ということで、高速道路をぶっ飛ばし、ターンテーブルを巡る旅に行って参りました。
到着してまず目につくのは、広場噴水の中に並ぶ年代物のターンテーブル達。
「わお! 濡れちゃうやん、良いの良いの?」
アートだから良いのかな(勝手に納得)。
入場すると、目の前に広がるのは、点在する数十台のターンテーブルと太鼓。
ターンテーブル上には、本来あるはずのレコードは乗っておらず、盤面自体が細工されている。
各ターンテーブルは全て電気コードで結ばれ、徐々に何か始まる気配。
…‥何も動きがない。
でもきっと何か起こるんだよね。
と、数分後、予想もしない背後から何やら振動のような音の伝わりを感じる。
ターンテーブルが回り、発生する機械音。
それはまるで、郊外に建てられた、だだ広く無機質な工業団地の人々がたてる生活の音、営みの音のようで、周りに対する意識が全く感じられない。規則性の無い営みの音が偶然に起こる「おとなみ」。団地の個室の扉の中の無関係の住人が無意識にたてる「おとなみ」は間隔も音量も選ばす、無規則。そんな団地の人々の横顔が浮かんだ。
振動に気づいて振り向くと、もう揺れは止んでおり、震源地がわからない。点と点の音のつながりなのに、なぜか統一感さえ出てくる。この繰り返しは徐々に病みつきになり、「次は どこだ?」のワクワク感に変化していく。この楽しみに理屈はいらない。ただ頭の天辺から足の爪先までの全細胞で、繊細でダイナミックな空気の振動を感じるのみ。
走り回るこどもを二人連れた私を見て、市民ボランティアのギャラリートーカーさんがこう話しかけてくれた。
「こどもには、私達には聞き取れない音、感じられない振動が伝わっているかもしれませんね」
正にこの一言に尽きた。音楽とは本来そういうものだろう。
自らの無意識な感性で遊べる希少な展示。童心に帰るも良し、理屈を捏ねて大人ぶるのも、また良し。音に戯れに、振動に漂いに、足を運んでみませんか?
- 大友良英「アンサンブルズ2010ー共振」2010年
- 水戸芸術館現代美術ギャラリーでの展示風景
- 撮影:下道基行
- 写真提供:水戸芸術館現代美術センター