ボーカル処理ってムズイ
世の中、ハイレゾが普及したり、より高音質でクリーンなサウンドが求められてきたこの頃ですが…ここ数年、テープシミュレーターやサチュレーターなど、音を「汚す」系のプラグインが多くリリースされてきていますよね。
それに違う目的があるのでしょうが、斜めにみると「歪みのないクリーンな音で録音しつつもあとで汚すなら最初から汚れてても良いのではないだろうか…」などと考えてしまいますね(笑)。サチュレーターにもいろんなキャラクターがあって使い始めてみると面白いです。
次のシリーズではサチュレーターを使ったミックスなどもお伝えできるといいなぁと考えています。
ボーカルチェーンって言われますけど…
ボーカルトラックに使用する複数のエフェクトの組み合わせを“ボーカルチェーン”と呼びます。エフェクトチェーンともいいますけど、チェーンは鎖とか一連の繋がりを意味するものでこの場合、ボーカルをよりよく聴かせるために使用するエフェクトプラグインの組み合わせとなりますね。今までこのコラムで紹介してきたのはイコライザー、コンプレッサー、ディエッサー、ゲート、それに加えてセンド/リターンでかけるディレイやリバーブなどですね。
イコライザーやコンプレッサーを複数使い分ける場合や、他にはピッチ補正プラグインやダブラーなどを使う場合もあります。
ボーカルチェーンについては“VocalChain”で検索するとたくさんの文献がでてくるので参考にしてみるのも良いと思います。
私もこの記事を書くにあたって調べてみましたが、シンプルなセッティングのエンジニアもいればプラグインを使いまくっているエンジニアもいましたね。
絶対にこれで処理をするっていう感じに決めてしまうと、目的がそのプラグインを使うことになってしまって本末転倒なので、自分にとって“ボーカル処理をするならこの組み合わせでスタートする”くらいな感じで一軍のラインアップを決めておくといいでしょうね。
さぁどれからいこうか。
ここのところ使わせてもらっている“原かの子”さんのボーカルを活かす場合、そんなに多くのエフェクト処理を必要とはしないイメージをしています。あまり必要のないエフェクトを繋ぎ合わせてもいい結果が出るとは思えないので、良い音がしているときはできるだけシンプルな構成でいいんじゃないかと思っています。
まず、補正をするためのEQ、コンプレッサー、(もしかしたら)イコライザー、ディエッサーも頭の片隅に置いておこうかな、というくらいの順番で考えています。
先ほど挙げたゲートが入っていないのは、声の消えかかっていくところでうまくゲートを聴かせられるかどうか不安ということと、自分的には歯切れのボーカルでならゲートを使いたいかなぁという点を考慮しました。
自分の好きな音ではなく、出来上がった曲の雰囲気に合わせると…。
どんな雰囲気の曲でも同じようなエフェクト処理をしていたらツマンないですよね。 音作りにはバリエーションの幅があった方が楽しいと思います。
まず、ノーエフェクトでボリュームバランスをとっただけのものを聴いてみましょう。
このトラック、ベテランエンジニアさんが録音したものなので、正直なところ「手を付ける必要無いな」という感想です。
これは録音する際にピアノも含めて「こういう音にしたい」という意図があって、パフォーマンスも含めてその通りに録音されているためでこういうときっていじくりまわさない方がいい結果を得られることの方が多いですね。
実際、フェーダーを動かしてもいないです。
特にマイクを使用して録音する場合、ちょっとした距離や角度で音の雰囲気が変わるのでそれらをうまくコントロールできると作品の完成度もグッと上がります。
まずは気になる部分を抑えてみる。
ボーカルとピアノというシンプルな構成なのでぶつかる帯域も少な目だとは思いますが、念のためチェックをしましょう。
両方のトラックにPro-Q 3を立ち上げて、ボーカルの方をチェックしてみましょう。
Pro-Q 3は同じセッション内でPro-Q 3を使用している場合は、相互に干渉している帯域を表示することができるので、この機能を使いましょう。
だいたい250Hz ~ 450Hzくらいのところがうっすらと赤くなっているのがわかりますね。赤濃くなればなるほど激しく干渉していることを示しています。
この場合、ボーカルをメインとする楽曲なのでなるべくボーカルの音はいじりたくありません。 そして干渉している帯域もずっと出続けているわけではありません。
こういう場合、ダイナミックEQを使用して気になるときに気になる分だけ抑えるように設定してみましょう。
ダイナミックEQのレスポンスをサイドチェーン機能を使ってボーカルに反応してピアノの300Hz付近を抑えてみました。こうすることで必要ないときは元通りの音が出て、気になりそうなときだけその成分を抑えることができるのです。
サイドチェーンのルーティングはDAWにもよって違うので、それぞれのDAWに合わせた方法でやってみてください。
Pro-Q 3側は、ダイナミックEQを設定し、EQの適用先をMIDのみにしました。これはオケの楽器が一つだけでステレオ音源なので、真ん中だけ空けたら歌が浮き出るかなぁという安易な思い付きです。
そしダイナミックEQのスレッショルドを決めるフェーダーの横にあるサイドチェーンマークをオンにして準備完了です。
さて、抑えてみたところを聴いてみましょう。
そうそう、これですよ!こういうのを聴きたかったんです!
この曲はそんなにいろいろ手を加えなくてもよさそうな気がしていますが、聴き進んでいくとレベルに差がありそうな部分を見つけたとします。オートメーションでフェーダー情報を書いてもいいですけど、コンプレッサーで抑えてすこし勢いのあるような音にしてもいいかもしれませんね。
「さ行・た行」などで歯擦音が気になる場合はディエッサーを使用して気になる帯域を抑えても良いと思いますが、やりすぎには注意しましょう。私のように歯の間から空気が漏れやすいタイプは必須アイテムです(笑)。
あれ?ボーカルチェーンの話をするつもりがボーカルトラックには全然触れていなかった…。 次回はボーカルトラックを作り進めていきましょう。