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FabFilter Tips vol.56

コンプレッサーのレシオを変えて試してみる

みなさんはいつもと違う環境で自分の作った音楽を聴いたことはありますか?

数年前、友人の結婚式で4日間インドのゴアに滞在したことがあり、その時にXkeyUGM192、ヘッドフォンを持っていきました。

最近行くようになった近所のカフェにもPCとインターフェース、ヘッドフォンを持って行ったりしています(もちろん空いている時間を選んでますよ)。

ガッツリ音楽を作るというような状況ではありませんでしたが、家で作ったものを確認したりはできました。 自宅で作った音楽を違う場所で確認すると印象が違って聴こえると思うのでお薦めです。 聴くだけならヘッドフォンアウトでもいいのかもしれませんが、UGM192の場合、その名の通り192kHzにも対応しているので、外出して録音する場合にも便利ですね。

あれ?宣伝?(笑)

さて、本題に入りましょう。

コンプレッサーでレベルを平坦にすることの弊害はないのか?

さて、今回も原かのこさんの歌を使わせていただきます。

前回、コンプレッサーでレベル差を抑え聴きやすくするというお話をしました。今回は逆のことで、平坦なレベルの歌は果たしていい歌に聴こえるのか?という視点でどうしたらいいか考えてみましょう。

アクセントなくずっと同じ調子の歌唱が続くとそれはそれで面白みが無くなってしまいますね。ただコンプレッサーは、声の表情まで平坦にするのではなく、強く歌っていたり、大きな声で歌っている部分はそのニュアンスを残してレベルだけを下げてくれる便利ツールなので心配する必要はあまりありません。

レシオのお話を前にもしましたが、高い値のレシオを選択した場合と低い値の場合では潰れ方に差が出るので注意が必要です。

この辺も「センス」と一言で済んでしまう話なのですが、なんとなくの指針が欲しいですよね。ちょっと試してみましょう。

曲調に合いませんが、キツめのレシオにした場合はこんな感じになります。

画面上部に現れる赤い線によってどれくらいコンプレッサーが働いて(ゲインリダクションして)いるかを教えてくれます。この設定だと子音がよりクッキリ聴こえてきますね。

ピアノの音とのマッチングを考えるとちょっと強調され過ぎてる感が否めないなぁ…。OKとするにはちょっと疑問が残ります。

アタックを遅めにすると印象がかわるので、このコンプレッションが気に入った場合は、その他のパラメーターも併せて調整していくといいと思います。

ちなみに遅くするとこんな印象ですね。

画面を見てもコンプレッサーが遅れてかかっていることがわかります。音の調整なので視覚を頼りにするのもどうかとは思いますが、詳細な部分は視覚からくる情報も必要ですね。

逆に緩めのレシオでコンプレッサーをかけるとこんな感じになります。

音の違いは判りましたか?

できたらイヤフォン/ヘッドフォンなどで聴いてもらえるとわかりやすいかと思います。 ちゃんとゲインリダクションはしつつもサビに向かっていくメロディの途中で体が鳴っている部分が強まっていくところ

飛んで行けたなら

という歌詞の部分ですね。

ここの体が鳴っている成分が緩めの設定の方がきれいに出ています。しかも、ガッツリかけた時よりも抑揚が付いていながらもバランスが取れていて心地いい感じに聴こえます。

違いが分かったら、次はどちらがお好みだったか判断してみましょう。

個人的には、楽器類もバキバキにキツめのコンプレッサーがかかっているトラックの場合はキツめのレシオの方が統一感あっていいと思いますが、今回使用している曲のようにナチュラルなサウンドとシンプル編成の場合は穏やかなコンプレッションの方が雰囲気をくずさずに仕上がるような気がします。

要は他の楽器とのバランスですね。逆張りするという選択肢も無いことはないと思いますが、一般的には…ね。

(バキバキなサウンドに合うボーカル処理はまた別の機会に書かせていただきます)

また、エフェクトのかかっていない状態のボーカルをよく聴き直して、キャラクターを活かしたい部分はどこか、エフェクトをかけることでしれが失われてないか確認することも大切だと思います。

ボクの視点というか好みでは、原さんの声のこの部分は残しておきたいと思うので、採用するのであれば緩めの設定なのかなぁ…と思っています(※ これで処理が完了ではないですけど)。

余談:ピッチ補正について考える

ピッチ補正についてご質問をいただいたので、ピッチ補正について少しだけボクの考えを。

ピッチ補正って、人間の行動に例えるとお化粧っていうイメージで捉えています。肌の色をワントーン上げるとか、輪郭をきれいに見せるとか…。写真の補正にはみなさんあんまり何も言わないけど、歌のピッチ補正に関してはさまざまな意見がありますね。

ピッチ補正って、歌の音程をメロディの正しい高さに合わせるっていう側面もありますが、それだけではないと思っています。

フレーズの節回しで苦手な部分や疲れてきてピッチが持続しないロングトーンを少しだけ調節することによって作者の意図とは違って聴こえそうな部分を補正する意味もあります。ピッチに対して±0ではなく、(おかしくならない範囲で)ちょっと上にすれば明るく聴こえるし、下にすれば暗く感じます。

そういうのも演出だと思うんですよ。

具体的で詳細なテクニックについては、ネット上にたくさんの資料がありますね。音程を補正するという基礎的な使い方の先に演出の方法論があって、そこは聴いているだけではわかりにくいけど奥深いものがあるということを知っておいてほしいです。

福地 智也

Jimmy Nolen、Nile Rodgers等に影響を受け、 Blues, Soul, Funkをこよなく愛す。ギタープレーヤーとして杏里、倖田來未、片瀬那奈、さんみゅ~、楠田亜衣奈等のレコーディング、佐藤康恵のライブに参加、同サポートバンドでは、バンドマスターを務める。ギター 演奏、音楽制作のみならず、楽器、DAWのセミナー、デモンストレーションでは、難しい用語を使わずに、誰にでもわかりやすい内容が評価を受けてい る。 https://www.dopewire.net/