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エレクトロニック・ミュージックが生まれた国

世界を魅了する電子音楽の世界

「テクノが好きならドイツ行かなきゃだめだよ」

数年前、わたしが電子音楽に興味を持ち始めたころ、よく聞いていた話です。何がテクノで、エレクトロで、エレクトロニカ!?なのかまだ何にも分かっていなかった二十代前半。それまで日本のバンド音楽ばかり聞いていた私に突如開けた電子音楽の世界。そこにポンと置かれたのは「ドイツ」というキーワードでした。ここでは「FROM STAFF:知る・楽しむ」初登場で電子音楽大好き女子であるWeb Uが出会ったドイツの電子音楽の世界をご紹介していきたいと思います。


なぜドイツ?

一般的にテクノやダンスミュージック、クラブ文化が盛んな地域は?と聞かれると、「ヨーロッパ」や「アメリカ」を思い浮かべる人がほとんどかと思います。事実、ドイツ以外のヨーロッパの国々やアメリカでも、ダンスミュージックを楽しむことのできる場所がたくさんあります。しかし、ではなぜ、ドイツがエレクトロ・ミュージックの本場と言われているのでしょうか? それには、電子音楽の誕生から現代のクラブ文化まで、ドイツで興った数々の重要な出来事が関係しています。

電子音楽の誕生

まず、電子音楽が誕生した国はドイツだと言われています。それは1950年代に「カールハインツ・シュトックハウゼン」が世界で初めて電子音のみで楽曲を制作したことに始まります。今聞いても新鮮な、心が落ち着く不思議な音色を出していますね(右記YouTube)。

そしてその影響を受けたより若い世代によって、ドイツ独自の音楽で現代のテクノの祖先と言われる「クラウトロック」が誕生します。「クラウトロック」は別名「ジャーマンプログレ」とも言われ、当時世界的に流行っていたサイケデリックなロックとエレクトロニック音楽が融合したもので、演奏の技術的な巧さよりも「反復」や「即興」によるトランス的な雰囲気を重視した、結構クセのあるの音楽でした。

「実験的(エクスペリメンタル)」な音楽ともいわれ、なかなか取っ付きにくい部分もありますが、聞けば聞くほど癖になり、現代の電子音楽につながる部分もたくさんあったりと楽しいので、ぜひ電子音楽のルーツが気になる方は「クラウトロック」を探求してみてください。

ちなみにそのクラウトロックで70年代頃世界的に活躍し、最も有名なグループのひとつである「KRAFTWERK(クラフトワーク)」が、今年7月にYMO主催のフェスへの出演のために8年ぶりの来日を果たしていました。

  • クラフトワーク OFFICIAL HP
    こちらのオフィシャルサイト内「VIDEO」ページではカラフルでポップなクラフトワークの楽しいライブ映像などがたくさん観られます

さらに同日深夜、同じく80年代にカルト的な人気を誇っていたクラウトロックバンド「Palais Schaumburg(パレシャンブルグ)」も奇跡の再結成初来日を果たし、この2つのバンドの同日来日はクラウトロックのファンには大変な話題となりました。

当日の幕張から東京の深夜の移動は中年殺しとまで言われていましたが、、、クラフトワーク、YMO、パレシャンとエレクトロニック・ミュージックシーンの先駆者である3アーティストを一夜で体験するという伝説的な経験をした方も大勢いらっしゃるのではないでしょうか。

ミニマル・グリッチ・エレクトロニカ

テクノの祖先と言われる「クラウトロック」が誕生したドイツでは、もちろん「テクノ」が盛んですが、より実験的でアーティスティックな「エクスペリメンタル・テクノ」(もしくは実験音楽、音響派)と言われる音楽も世界から注目を集めています。

特に坂本龍一氏との交流で日本でも有名になったレーベル「raster-noton(ラスターノートン)」は、独特な存在感を出し現在ファンの多いレーベルのひとつです。主催者の一人である「alva noto」こと「Carsten Nicolai」はミュージシャンだけでなく、サウンドアートのアーティストとしてアート関連イベントなどにも参加し多才な活動をしています。

このジャンルは接触不良音のようなノイズやパルス音など、昔は「音楽」の素材とは考えられていなかった音、もしくは「無音」までも用いて、確固たる地位を獲得していきました。また取っつきにくそうな音楽だと思われる方も多いかもしれませんが、これらの音楽はぜひ良質のスピーカーの良質な音で実際に全身でライブを体感してみることをオススメします。良質な環境で聞くとノイズなども心地悪くなく、スッと耳に入ってきます。

世界最大規模のテクノイベント

ドイツは世界最大規模のテクノイベントが開催された場所として、世界中のテクノファンに知られています。それはベルリンの壁崩壊後の1989年、平和を祈るデモとしてあるDJが始めた最初は150人ほどの小さなパレードでした。

その名は「LOVE PARADE(ラブパレード)」。年を重ねるほどに毎年参加者が増え続け、ピークの1999年には国内外から150万人!!もの人が集まったそうです。ディリゲントがある銀座で先日行われたオリンピックメダリストの凱旋パレードに集まった人が50万人でしたから、その3倍もの人がドイツの中心都市であるベルリンに集結し音楽で踊っていたのです。。いったいどうなっているのか全く想像がつきません。。

ラブパレードはサウンド・システムを積んだいくつものトレーラーを中心に参加者が街を踊り、練り歩き、最後に戦勝記念塔がある広大な公園に集合しファイナルギャザリングのDJを行うというのが決まった流れでした。

ラブパレード

このファイナルギャザリングでは日本を代表するテクノDJ石野卓球氏も1998年に出演しました。その際の動画を拝見しましたが、その映像は圧巻の一言。卓球氏もこれだけの人の前で回す機会はもうここだけしかないだろうと感動のコメントをしていたのが印象的でした。

しかし、その後このラブパレードは集まりすぎた人のためにもはやデモではなく、商業的なイベントとなってしまい、多くの批判などから中止を余儀なくされることが続きました。そして2009年の中止を経て開催された2010年、ついに死傷者が出る事故が発生し永続的な中止が決定したのでした。。残念ながら事故という形で終わってしまったラブパレードですが、これだけの規模でこれだけの人とテクノミュージックを体感し共有する場というのは後にも先にもここだけでしょう。

ヨーロッパ屈指のナイトスポット

さらに、ドイツには数多くのクラブが存在し、ヨーロッパ屈指のナイトスポットとしても有名です。

それはヨーロッパだけに留まらず世界的にも知られ、多くのアーティストやそれを求める人がドイツに集まっています。エレクトロニック音楽好きが高じてドイツに移り住んでしまったという方の話まで私は聞いたことがあります。週末ともなれば国内外から老若男女のクラバーが訪れ、金曜夜から日曜夜まで48時間営業するようなクラブも存在するドイツ。ベルリンでは週末になると電車も24時間営業だとか。

今、ドイツではクラブ文化を脅かす大問題が起きています。

ドイツの著作権協会「GEMA」が来年1月より楽曲の使用料の法外的な値上げを発表し、クラブにとって約10倍になるとも言われるその使用料の支払いのために多くの店の存続が危ぶまれているのです。特に世界的に最も名の知れたベルリンのクラブ「Berghain(ベルクハイン)」が閉店を予感させたことは多くの音楽好きに衝撃を与え、来年のドイツのクラブ・シーンの行方を世界中が注目しています。

繋がるルーツ

ここまでドイツでおこった様々な出来事をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?

今日本では電子音を使った踊れるエレクトロなバンドやテクノに影響を受けた若いアーティストが数多くでてきていて、日本の音楽しか聞かない人にとってもそのルーツにある電子音楽に興味を持つきっかけは昔より増えていると思います。「Perfume」のようなテクノポップなアーティストが多く出現していますし、ロックバンド「サカナクション」もテクノ音楽の影響を受けていると公言していますね。

今回ご紹介した内容は、電子音楽に興味がある方にとっては当たり前のことが多かったかもしれませんが、興味を持ち始めた若い方などがさらに興味を深める、知らないことを知るひとつのきっかけになれればとても嬉しいです。

皆様の好きなアーティストの音楽のルーツはいったいどこでしょうか?
もしかしたらドイツに繋がるかもしれません。ぜひ探求してみてください。