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パパDJ〜第1話「それは夢か現実か」

パパDJ 第1回 バナー

 40階建てのマンションの最上階に位置する居住者用の遊戯室は、熱気に包まれている。冬なのに日差しが強かったせいか、部屋の中はムンムンとした暑さを感じるほどだ。そこには10人ほどの子どもとその親たちが、クリスマス会と称してジュースの入ったコップやビール缶を片手に、持ち寄ったおつまみやお菓子を頬張りながらはしゃいでいる。冬休みの旅行計画に花を咲かせるママたちの声は天井に高く鳴り響いていく。

 こういうときのパパたちはもっぱら雑用係というのが相場だ。料理を温めたり、ジュースをこぼす子どもの後始末に追われたり、ママたちに顎で使われるのがオチである。仕事の都合で来れないパパも多かったのか、10家族に対して父親の参加は6人と少々さびしい。

 子どもが10人も集まれば、トラブルがおきるのは当たり前のことだ。言っているそばから泣き出す子どもがひとり、ふたりと増えている。お菓子の取り合いが原因らしい。どっちが悪いとか我慢しろとか、ママたちの厳しい目線を背中にヒシヒシと感じながら叱るに叱れないシチュエーションに、少々戸惑いを感じるパパもいるようだ。

 さっきまで窓から射し込んでいた日の光が知らず知らずのうちに傾き、気づくと外の景色はうっすらと暗くなってきていた。夕日を眺めようと窓から外をのぞむと、無情にも隣に建つ高層マンションに遮られ、後光のさすビルの輪郭を拝むことになった。

 すると突然、会場で心地よく鳴っていたBGMが止まり、部屋の明かりも消された。うす暗くなった室内では、子どもたちが、突然の出来事に何が起きたか分からない様子で顔をキョロキョロしている姿が見える。泣いていた子も騒いでいた子も、もくもくとお菓子を食べている子の手もさすがに止まったようだ。ママたちも何が起こったのか瞬時に事態を把握することができていない。戸惑いを隠せない様子で自分の夫に何が起きたのかを尋ねようと夫を探すそぶりを見せはじめている。

 そのとき、突然入口のドアが開けられた。蛍光灯に照らされて、赤いマントと赤い帽子をかぶり、顔には白いひげをたくわえたおじさんが見える。ドアが開ききると、部屋の中に入ってきた。右手には黒い箱のようなモノを持ち、左手にはノートパソコンらしいモノを持っている。姿形はサンタクロースだが、白い布袋は持っていないようだ。部屋に入るなり大きな声で、

「メリークリスマス!!」

 と、一言叫んだ。

 そのままサンタクロースは足早に部屋のあるところに進み始めた。うす暗い部屋を一目散に進む先に見えるのは、どうやら先ほどまで心地よいBGMを聞かせてくれていたコンポらしい。少し猫背になって前かがみ気味になりながら進む姿は、威風堂々とするサンタクロースのイメージとは少しかけ離れている。

円盤

 ようやくコンポがセットされている場所に辿りついたサンタクロースは、右手にもっていた箱をコンポが乗っている机の脇に置いた。箱と思っていたモノの表面には円い円盤のようなものがついているのが、暗い中でも確認できる。銀色の円盤は残光を浴びて、鈍く光っているのが見えるからだ。

暗闇で光る

 左手に持っていたのはやはりノート型のパソコンだった。机に置くなりノートを開くと、うっすらとディスプレイが照りだし、サンタクロースの顔を際立たせている。うす暗い中で真剣な表情で何やらキーボードを叩いている顔を、液晶の光が滔々と照らしている。そして、パソコンと黒い箱を何かのケーブル状のようなものでつなげている。差込口が小さいせいか、上にしたり下にしたり向きを変えながら差し込もうとしているようだが、どうやら暗さもあって手間取っているようだ。なんとなく手が震えてもみえるが、緊張をしているのであろう。

ケーブル

 パソコンと繋がった瞬間に、黒い箱の表面に赤い光がいくつか点灯しているのが見える。繋がったことを確認したサンタクロースは、息つく暇もなく黒い箱の背面をみてまた、何かを差しはじめた。パソコンと繋いだときのケーブルとは違うケーブルを差しているのが確認できた。そしてそのケーブルをコンポにつないでいるようだ。コンポの背面にケーブルの片方を持っていった。キョロキョロする姿は滑稽だが、どこに差していいのか分からないからだろう。あたふたする中で、一瞬顔に笑みが見えた。目的の場所が見つかった証しだ。

 コンポの前面にあるボタンをいくつか押し、音量を調節するであろう丸いノブを回している。コンポの隣にセットされているパソコンの前に再度立ち、画面を見ながら自分に注目している子どもたちとママたちを見まわした。サンタクロースの口を覆う口髭の隙間から白い歯が見えた。暗い中でも目にみなぎるパワーが子どもたちの好奇心を駆り立てている。

 サンタクロースが人差し指を天に掲げた。一番の格好だ。少しの間をおいて、力強く黒い箱の一点に指を振り下ろす。静寂がつつむ中、コンポのスピーカーから

「あんぱんまん」

 というフレーズが・・・大音量で流れた。

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投稿者:Sales K


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