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ディリゲントと愉快な仲間たち Vol.5 〜ユーザーに愛されし物〜

超コンパクトなシンセサイザー、「πλ²(ピーエルスクエアド)」の発売元であるPloytec社のインタビューがドイツの楽器専門誌KEYS誌に掲載されました。ヨーロッパの楽器業界において影響力をもつKEYS誌のインタビューを和訳でお楽しみください!

◆ユーザーたちに愛されし物

Ploytec(プロイテック)は、おそらく世界で最も小さいであろうシンセサイザー、8bitシンセサイザーπλ2(ピーエルスクエアード)を発売している。私たちは8Bitサウンドの魅力について、またバーデン·ヴュルテンベルク州にあるPloytec社の成り立ちについて、マーカス・メダウに話を聞いた。(アレクサンダー・チェボラーニ / KEYS 2014年7月)

【KEYS誌】 Ploytec社は、いつ頃、どのように設立されたのですか?

Markus氏

マーカス・メダウ:

Ploytec GmbHは、ちょうど設立10周年になります。
会社として法人を作ったのは、USBオーディオドライバー(*注1)の開発を始めて5年ほど過ぎた頃でした。
現在でも、多くのメーカーの製品に私たちのUSBオーディオドライバーが使われていて、これがPloytec社の主なビジネスになっています。

※注1
この”USB Audio”は、標準のUSBオーディオデバイスをASIO対応にしてしまう画期的なソフトで、2000年代のDTMユーザーはかなりお世話になったはず。その品質と安定性には定評があり、単品販売だけでなく全世界の有名機材ブランドの製品にもOEM供給されていました。

【KEYS誌】最初に開発した製品はなんでしたか?

マーカス・メダウ:

初めて開発したのは、πλ2のようなハードウェアではなく、USB2.0での高速オーディオ転送を実装した製品を設計する為の、メーカー設計者に向けた2種類のリファレンスデザインでした。
“USB2 Audio Junction”と”USB2 Launchpad”は、どちらもUSBクロックから独立した純粋なオーディオクリスタルで動作するという、当時としては先進的な仕様です。その後”USB2 Launchpad”は、2005年に192KHz、32in/16outまで対応しました。

【KEYS誌】
Ploytecの製品一覧をみると、8bitシンセπλ2をはじめとして、レイテンシー測定メーター、MIDIクロック設定用タップペダル、マスタリング用プラグインソフトなどがあります。
これだけのバラエティーに富んだ製品開発をする原動力はなんでしょう?

マーカス・メダウ:

MIDIクロック・タップテンポペダル“34oneII”は、GEN:IXというベルリンのバンドでキーボードを弾いていた時に、個人的に欲しいと思った製品を、πλ2と同じように楽しみながら作った製品です。
オーディオの遅延時間を簡単に計測できるレイテンシー測定機“Latec-o-meter”も、サウンドカードやオーディオドライバーの開発者としてとても必要だったのですが、それが出来る製品がどこにも無かったので、自分たちで作るしかありませんでした。

マスタリング用プラグイン“700W”は、波形のゼロ交差とゼロ交差の間で特にオーディオレベルの高い部分を検出し、レベルを適正値まで下げるという作業を自動化してくれます。これは通常のコンプレッサー/リミッターのように、アタックタイムとリリースタイムを操作して元のオーディオ波形を変形させるやり方とは根本的に異なる方法で、まるで波形にアイロン掛けをしたような、すばらしい結果が得られます。今のところ、これと同じ事ができるプラグインソフトはありません。
このプラグインは、ケルンにあるIntelligent Sounds & Music社との技術協力のもと開発されたました。

◆πλ2開発のスタート

【KEYS誌】πλ2は、8ビットサウンドを作り出す世界最小のシンセとして、世界中で大きな話題となっています。
どのようにして製品のアイデアを思いついたのですか?

マーカス・メダウ:

私たちがスクエア・ウェーブ・シンセシス方式と呼んでいる、アナログのパルス波を組み合わせてサウンドを作り出すやり方は、何年も前から頭の中にありました。2012年の秋頃、8bitシンセに使えるチップが大量に安く手に入ったことで、πλ2の開発がスタートできたのです。
MIDIケーブル経由の限られた電流で、安定して動作するオーディオ回路を設計するのは大変でしたが、エンジニアのフェリックス・フォーシュナーは、素晴らしい仕事をしました。

【KEYS誌】πλ2は8bitのサウンドチップを使っています。8bitのサウンドチップと言えば、80年代のクラシックなコンピューターに搭載されていたSIDチップ、その中でも特にC64が有名ですが、πλ2の開発に当たっては、何かお手本となるモデルはありましたか?

マーカス・メダウ:

正直なところ、πλ2の開発している時には、古いコンピューターやMOD製品などのことは全く頭にありませんでした。2013年のMusikMesseで初めてプロトタイプを展示した時、多くの人がSIDチップとの関連性を感じたようですが、音色が似ているというのは、πλ2の波形や機能によるものではありません。

ソフトウェア・エミュレーションをしているわけではなく、SIDのアナログ可変フィルターと同等の物を、意図せずにデジタルで作ってしまったのです。全体的なサウンドについても、画期的なフィルターリミッティングやアナログ許容レベルの設計によって、結果的に同じ方向性になったようです。
ただ、πλ2はアナログシンセサイザーであって、ビンテージゲーム風の8bitサウンド音源ではありません。

【KEYS誌】SIDの音が、人々を魅了するのはなぜでしょうか?

マーカス・メダウ:

コモドール64のSIDサウンドは、いわゆるゲームボーイやアタリのサウンドとは違った、魂に響くようなフィルターサウンドが特徴的でした。後年もさまざまなメーカーがSIDサウンドを持つ数多くの製品をリリースしています。
現代の電子音楽は、これらのサウンドの影響無しには語れないでしょう。

【KEYS誌】πλ2に対するユーザーからの反応はどうですか?

マーカス・メダウ:

ユーザーたちは本当にπλ2を愛してくれています。
多くのアーティストがデモソングを提供してくれたことは、本当に嬉しい限りです。Kelvin Sholar、Kyle Geiger、Joey Davis、最近ではRobbie BronnimannとAndy Hunterもそうです。
KMFDMのSascha Konietzkoは開発の初期段階からπλ2のファンで、初回ロットの到着を心待ちにしてくれていました。
その他にも、日本にはこの小さな箱を愛してくれる友人たちがたくさんいて、昨年のクリスマスには一旦品切れになるほど、びっくりするような台数が売れています。

◆今後の展開

【KEYS誌】このモデルから派生した、ソフトシンセなどの開発プランはありますか?

マーカス・メダウ:

今のところは、ちょっと違う方向で考えています。
πλ2内部のアナログ回路の許容誤差や傾斜特性、125kHzフィルターのサンプルレートなどは、ある程度の労力でシミュレーションが可能です。しかし肝心の8bitチップについては、実際の挙動を電子的な短い時間で計測すると、かなり気まぐれな動きをしていることが分かります。これをシミュレートするには、チップそのものをゼロから完全に解析する必要があるのです。

pl2white

その代わりとは言ってはなんですが、USB接続で使用できるπλ2の新モデル “πλ2 Leukos”を秋頃に発売する予定です。
すでにFacebookに写真を載せているので、チェックしてみて下さい。

πλ2 LeukosはUSB接続での単体使用のほか、MIDIアウトに現行のπλ2を接続して、同時発音数の追加、レイヤー、デュアルチャンネルを可能にします。

他にも、現行のπλ2のアップデートを予定していて、ひとつは、本物のSIDと同じ波形と機能(リングモジュレーターなど)をπλ2に追加するという、個人的にもすごく魅力的なプランです。
またそれより早い時期、おそらく近いうちに、80年代の偉大なサウンドチップを“トリビュート”するアップデートを発表できるでしょう。

<終わり>

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ふかし

世界中の面白い音楽機材やソフトウェアを日本に持ってくる仕事が楽しくてたまらない。最終的なブランド選定基準は「中の人がいいヤツかどうか」。