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フランチェスコ・トリスターノについて2:新譜『LONG WALK』

フランチェスコ・トリスターノについて2

前回フランチェスコ・トリスターノについてご紹介しましたが、最近トリスターノは新譜『LONG WALK』をリリースしました。


まずは、この動画を見てください!

インパクトがあってすごくカッコいい演奏だと思いませんか? 実はこの曲はトリスターノの新譜『LONG WALK』に収録された彼のオリジナル曲です。同じフレーズをずっとループしているようですが、しばらくするとパワー溢れるフレーズがいきなり飛び出してきてすごくカッコいい演奏です(このビデオの中では45秒後ぐらい)。

この曲は、彼の前回のアルバムの『Idiosynkrasia』に収録された「Single And Doppio」で使われたフレーズのピアノ・バージョンです。「Single And Doppio」はバリバリテクノ系の曲で、それはそれでカッコよかったのですが、ピアノ・ソロにしてもやはりカッコいいです。このフレーズはリズムもはっきりしていますので、もしかすると、皆さんのDJに活用できるかもしれませんね。

でも、このアルバムは実は完璧にクラシック系の老舗レーベル、ドイチェ・グラモフォンから出されたアルバムなのです。収録された曲はブクステフーデ、バッハ、そしてトリスターノのオリジナル曲です。通常、クラシック音楽のアルバム選曲では、暗黙の了解のようなカップリングがあって、例えばモーツアルトのクラリネット五重奏曲にはブラームスのクラリネット五重奏曲、ベートーベンのバイオリン協奏曲にはブラームスのバイオリン協奏曲などなど、普通に考えると別になくてもいいようなカップリングが結構クラシックでは定番になっていたりするわけです。

このアルバムでいうと、普通のクラシック音楽の通例で考えれば、ブクステフーデと同時代のバロック作曲家をカップリングするかもしれません。でも、トリスターノは前回のアルバム『BachCage』と同様、この『LONG WALK』でもそうした選曲のカップリングはあえてしませんでした。しかも、老舗であるドイチェ・グラモフォンで。何か反抗的な策略を感じませんか?

では、トリスターノはどうしてこのような選曲をしたのでしょうか。その理由はアルバム名『LONG WALK』という名前に隠されています。以下のビデオの中でトリスターノ自身がアルバムを作ったいきさつを語ってくれていますのでご覧ください。

——–(内容訳)——–

Buxtehude:

「ディートリッヒ・ブクステフーデは、非常に特別な存在であり、類希な作曲家でした。疑いもなく、彼はバロック時代の偉大な作曲家でした。彼は北ドイツのリューベックのマリエン教会のカントール(合唱長)として活動し、ブクステフーデの音楽は音楽の歴史に大きな影響を与えました。そして、もちろん若いヨハン・セバスチャン・バッハにも多大な影響を与えました」

Long Walk:

「1705年、20歳になったバッハはアルンシュタットから250マイルも離れたリューベックまで歩いてブクステフーデに会いに行きました。初めは3週間という短い滞在を予定していたのですが、最終的には3ヶ月以上も滞在することになりました。この滞在が実際にどういったものだったのかは分かりませんが、いずれにしても、これを機にバッハの作曲が変わりました」
(バッハ「ゴールドベルク変奏曲」アリアの演奏)

Bach:

「このアルバムの主要曲であるアリア『ラ・カプリツィオーザ』はブクステフーデの作品の中でも最も優れた曲です。この曲はバッハの「ゴールドベルク変奏曲」として知られる32の変奏曲のアリアのモデルとなった曲と言えるでしょう。ブクステフーデの曲は当時の流行曲である「Kraut und Rüben haben mich vertrieben」に基づいています。
(流行曲のフレーズの演奏)

これはブクステフーデのバージョンではこうなります。
(ブクステフーデの曲)

そして、バッハのバージョンではこうなります。
(バッハのゴールドベルク変奏曲の演奏)

全体的に見ると、ラ・カプリツィオーザとゴールドベルク変奏曲の間には多くの類似性があります。例えば、ブクステフーデの曲はこうです。
(ブクステフーデの演奏)

バッハではこうなります。
(ゴールドベルク変奏曲の演奏)

バッハのゴールドベルク変奏曲のどの曲もブクステフーデのラ・カプリツィオーザのもう一つの「バージョン」と言えるでしょう」

Tristano:

「1975年にバッハの草稿の重大な発見がありました。この草稿はゴールドベルク変奏曲のベースラインを元にした14のカノンでした。14のカノンは書き出されたものではなく、指示あるいはルールのようなもので、これらの指示が私のLONG WALKの作曲のベースとなっています。カノンは現代のループの考え方と多くの類似性があります。私は作曲を行なう際、このカノンを取り出して、ループとして利用しました」
(トリスターノの曲)


どうでしょうか。

今までに数多くのソロやコラボの中でテクノ・ミュージックを演奏し、Aufgangでのバンド活動では、ロック、ジャズ、クラシックを組み合わせたような曲作りをしてきたトリスターノですが、今回のアルバムではバロック音楽と現代の音楽を結びつけようとするトリスターノの大きな意図を窺い知ることができるでしょう。このアルバムでの選曲には単なる反抗ではなく、必然的な理由があったわけです。

もっと言えば、彼の音楽活動自体が古典と現代の乖離を埋めていく活動だとも捉えられますし、古典と呼ばれている音楽に新たなアクチュアリティを与えようとする活動であるとも言えるでしょう。そこには古典を古典としてではなく、現代的な意識の中から古典をすくいあげようとする態度があるのです。

トリスターノには現代的な側面と古典的な側面の二面性があります。ここで彼の現代的な側面を良く表している激しいロック調のAufgangの演奏をお聞きください。

音質は最悪ですが、激しいライブの雰囲気が伝わってきてすごくカッコいい演奏だと思いませんか? ドラムを中心にしてピアノがパーカッションのようなサウンドで迫ってくる感じですね。

こちらは映像と音楽がマッチして最高にカッコいい演奏です。

トリスターノはループを特に好んで演奏します。作曲もループを元にして、そこから緩やかに変化させていくスタイルが多いです。これはある面では非常に現代的であり、またバロック的な考え方に基づいているとも言えるでしょう。ループを好むこの彼の傾向は彼のAufgangでも、クラシック音楽の演奏でも見受けられます。

誰しもあの曲のあのフレーズが好き!みたいな感じで、好きなフレーズを何回も聞きたくなることがあると思います。その究極がDJでのループであったり、バロックでのフーガであるとも考えられます。昔から人間は反復のフレーズに大きな魅力を感じてきたと言えるでしょう。

それでは最後にトリスターノによるブクステフーデの演奏を見てみましょう。ブクステフーデのループの世界をご堪能ください。何人ものトリスターノが登場します。