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パパDJ〜第2話「よみがえる記憶」

パパDJ 第2話 バナー

「ゆ、夢かあ~」

 残暑が厳しい日が続いている。暑さで眠りの浅い日が続いたせいか、疲れがなかなか取れない。その中で、今朝は昨日飲み過ぎた日本酒が体に残っているせいでだるい。さっきの夢の続きを見たくて二度寝を試みるが、暑さがその邪魔をして、一向に眠りにつけない。おもむろに時計を見ると7時30分。寝坊だ。

 急いでベッドから降りてみるが、体が言うことをきかない。トイレに行くのも億劫だ。ダイニングへ行きコップ一杯の水を飲もうとすると、すでに子どもたちが食卓の椅子に座り、妻が作った朝食をもりもり食べているところだった。とてもその光景を見続けることができないほど、気分が悪い。

「昨日は遅かったね! ぱぱ」

 息子が私の二日酔いの姿を見るなりそう声をかけてきた。

「あまり飲み過ぎないでね。今日こそは子どもたちの宿題をみてくださいね」

 妻も子育ての疲れですこし目の下がクマになっている。いつも仕事にかこつけて、子育ての負担をすべて負わせてしまっているので、申し訳なく思っている。

「あ、分かった。すまん」

 いつもの応えに、妻の顔は少し曇っているようだ。水を一気に飲み干し、急いで会社の支度をはじめるが、なかなかネクタイの結び目が決まらない。二日酔いの時は手元がよく狂うので、支度に時間もかかる。歳を取ったのだろうか。

「ぱぱ、学校へいくよ」

 息子の声に押され、中途半端だが家を出ることになってしまった。

「兄ちゃん、いってらっしゃい」

 幼稚園に通う娘が妻と一緒に見送りにきた。

「いってきます」

 息子は元気に応える。

 娘は私が父である実感はあまりないようだ。夜、帰宅後は寝ているし朝もあまり会話がない。最近は休みの日は息子に時間を取られ娘の面倒は妻にまかせっきりである。仕方ないことではあるが、反面寂しさに突然駆られることもしばしばだ。

 息子と家を出て、学校の途中まで一緒に通うのが習慣だ。元気に走っていく息子を遠目に、駅の方へ向きを変えた。週半ばの駅は通勤通学の人で溢れかえっている。二日酔いには、きついシチュエーションだ。自分自身の体から発する酒の臭いも気になる。十分臭いで迷惑をかけているのだから。

 ホームで並び、5分遅れて運行している電車に乗り込む。普段はドア付近の場所を陣取るのだが、今日はつり革につかまるため車内の中ほどまで進んだ。鞄を持つのも億劫な気分であったので、幸い目の前に空いている網棚に放り投げて両手で吊り輪にぶら下がった。

 電車が走りはじめ、窮屈さを感じながらも揺れに体を任せていると、二日酔いと相まって眠気が襲ってきた。その中でふと、「今朝見た夢がなんだったか?」という思考になった。よくあることだが、夢の記憶は脆く目覚めとともに忘れるものだ。今日も、どんな夢だったか思い出せない中で、

「何だったっけなあ~」

パパDJ ヘッドフォンイメージ

 と、独りごとを言っている自分がいた。すぐに周りを見たが、スマートフォンでゲームをしている人、新聞を読んでいる人、同じように深酒がたたってうたた寝をしている人、それぞれが自分の世界に浸り特に気にも留められていなかったようだ。隣にいる学生は、耳に金装飾されたヘッドホンをつけて大きな音で音楽を聴いている。電車の騒音にも負けない大音量は電車が駅に停まるたび、ひとときの静寂の中に、彼が聴く音楽のビートが私の耳にも入ってきた。

 ビート?! リズミカルでノリのいい音楽。何か、もやもやした記憶の糸がほぐれていく感覚がある。

「思い出した。思い出したぞ!」

 ひときわ大きな声で独りごとを言ってしまった。さすがに怪訝な顔をしてこちらを見る人たちがチラホラ見える。年甲斐もなく、恥ずかしい思いが顔にも出ているのか、何やら顔面が熱くほてってしまった。隣の若者には、私の独り言が聞こえていないようだ。

パパDJ パーティイメージ

 記憶を思い出せないときは、どんな糸口でもその可能性に向けて脳みそをフル回転させるのだが、一度その糸口を見つけると、逆になぜ思い出せなかったのかという感覚に陥るのは私だけだろうか。

 今朝みた夢。それは、私がDJをしている夢だった。厳密にいうとDJをやろうとして目が覚めた。これから一番おいしいところ、見せ所だったから余計に続きを見たくて二度寝を試みた心境までも思い出せた。

 細かいシチュエーションは、現実とだいぶかけ離れた感じはあったが、夢とは利己的で理想的で残酷でもある。夢の世界ではあったが、一瞬自分がその場の注目の人、厳密にいうと注目されたサンタクロースになっていたのだ。子どもたちの期待の眼差し、母親たちの好奇の目、自分でもよくわからないワクワク感を持っていた。記憶がよみがえった今、脳科学者が定義している脳内ドーパミンという作用が、私の脳みそでも活性化しているようだ。

 この、満員電車の中で・・・。

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投稿者:Sales K


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